カルテ459 エターナル・エンペラー(後編) その26
「それよりも予言の解釈ですよ! きっと今の状況に符合する何かが隠されているはずです……勘ですけど」
テレミンが議論の軌道修正を行い元へと戻す。
「なんか意味深よねー。最初の方は今夜のことを指し示すようだけど……?」
忘れないためにか、イレッサが空中に指先で先ほどの予言の文を書きながら読みふける。
「『赤き夜』は紅のオーファディン彗星、『青き地の底にて』は大雪渓のクレバスのことでしょうね。なんだか僕たちの出会いを表しているようにも思えますが……」
横からシグマートが補足する。
「問題は次の、『細き蜘蛛の糸の先に骨に守られし黄金の蝶羽ばたきけり』だな。本当に黄金の蝶などいるのか?」
ミラドールも予言の謎解きに加わり、皆と一緒に思案投首する。
「それに関しては実際に存在するそうですよ。とある本で読んだことがありますが、ここのような高山に主に生息するって書いてありました。人間の手が触れると死んでしまうほど弱いそうですが……」
「さすが動物博士のテレミンさん、よくぞそんなマイナーな昆虫までご存知ですね」
すかさず人狼が手放しで誉めそやし、うぶな少年の頬は熟した桃と化した。
「じゃあその貴重な蝶が蜘蛛の巣に引っ掛かっているのを助けろって意味でしょうか? 毒とかを持った変な化け物蜘蛛じゃないといいんですが……ううううう」
ルセフィよりも青い顔をした、もはや風声鶴唳にも怯えるフィズリンが、毛虫でも踏んづけたかのようなうめき声を発する。
「でもその解釈だと、『骨に守られし』って箇所がちょっと浮きませんか?」
「ほぉ、それもそうですね。シグマートさん、今いいことを言われました!」
「……」
フィズリンは自分の意見が即座に否定されたので恨めし気にダオニールを睨んだが、誰の意見でも区別なく褒めるところがこの人狼の美点かもしれないと思い直し、不満の弁を喉元で吞み込んだ。
「あっ、分かった気がする!」
真っ先に正解にたどり着いたのは、案の定というかテレミンだった。
「どれよどれよどれよ、お宝への道はどれよー!?」
「宝じゃないだろうがこの欲に塗れた邪妖精めが!」
「ミラドールさん、それよりも話を聞きましょうよ!」
「……あっちの方々はいつもこうなのかしら?」
「ま、まぁ、我々もあまり他人の事は言えませんがねぇ……」
「どどどどどど毒蜘蛛がいるんですかテレミンさん!?」
都合7名が興奮し一気にしゃべり出したため、一時期蜂の巣をつついたような大騒ぎとなったが、頭を冷やして落ち着きテレミンの導き出した解答を聞いた一同は皆納得し、彼の指し示す入り口をくぐった。
……そして大広間に出て、めでたくゾンビの群れと遭遇する羽目と相成る。




