カルテ456 エターナル・エンペラー(後編) その23
「……」
ラミアンはこの一見頓狂な男の姿から、白亜の建物が五千年の長きにわたってユーパン大陸を彷徨っているという伝説が脳裏に浮上し、一種畏敬の念に打たれていた。
「さてさて、掴みはオッケーってなところで話を元に戻しますと、ハンバーグやレバーに含まれる、人体の外から来る有効成分を外因子、それに対比して胃液の中の有効成分を内因子と名付けられました。このように少しずつ実態が判明してきたのですが、折悪く第二次世界大戦っていう世界中を巻き込んだ大戦争が勃発しちゃったのでせっかく盛り上がって来たのにしばらく全てがストップしました」
「こっちの世界と同じだ……」
ラミアンは、度重なる帝国とエビリファイ連合の戦いの言い伝えを重ねていた。戦禍によって村は何度も荒廃し、山奥へと移動してきたという。
「さて、戦後ようやく研究が再開し、その結果肝臓からコバルトというコボルトって妖精族が語源の金属をごく僅かに有するシアノコバラミンという物質が分離され、こいつこそが長年探し求められていた外因子の正体であることがめでたく判明しました! コバルト文庫は少女向け! ……ってなんでもないです、忘れてください」
「いや唐突過ぎて忘れようがないよ!」
「いいから話を進めなさい!」
反射的に後ろを振り向いたラミアンは、ラベルフィーユが先ほどのちっぱいの件を未だに根に持っていることをすかさず悟った。
「すみませんね、常時脱線しているようなもんでして……で、つまりこのシアノコバラミンは人間の体内では生産出来ない特殊な物質なので、牛や羊などの肉や肝臓を食べてせっせと取り入れるしかないわけです。ちなみにこれは後にビタミンB12と名付けられましたとさ」
「そうだったのか……しかし……」
ようやく事の本質がわずかながらも理解できたラミアンは、医学の深遠さの一端を知るとともに、新たな疑問がひづめを鳴らして迫ってくるのを感じた。
「そもそも何故牛や羊ではそのビタミンB12とやらを作ることが出来て、人間ではダメなんだ? 身体に絶対に必要なものならなおさらだろう?」
ラミアンの質問に対し、本多は「ほほう」といった表情を見せ、彼の頭の巡りの良さに感づいた。




