カルテ454 エターナル・エンペラー(後編) その21
「ま、なにがあろーが結局どーせ進むっきゃないわよ。さぁミラちゃん、レッツゴー!」
「なんで私が先陣切らなきゃいけないのだ!? 言い出しっぺの貴様から行け、腐れ蛮族めが!」
「やれやれ、仕方がないですね。私が参りましょう」
イーブルエルフ同士が言い争っている間に、恐れを知らぬ人狼が大胆にも単独でズンズンと洞窟内を闊歩し、足音を響かせながら奥へと消えた。
「ダオニールさん、無茶しないでください! 大丈夫ですか!?」
テレミンの呼びかけも黒洞々たる暗がりに木枯らしのごとく虚しく吸い込まれていくのみだったが、数秒遅れて返事が来た。
「誰もいませんし、今のところ危険はなさそうですよ、テレミンさん。しかしながらこれは、何と言うべきか……」
「ええっ!?」
ダオニールの声に困惑の色がうかがえたため、好奇心旺盛なテレミンも気になって、小走り気味に後へと続いた。
「い、入り口が……9個も!?」
そこは先ほどよりも倍ほども直系のある円形の大空間で、茫漠とした闇が広がっていたが、光り苔のお陰で微かだが様子を探ることが出来た。眼を凝らしてよくよく眺めると、洞窟内の内壁に等間隔に9個の入り口が整然と並んでいるのが見て取れた。
「あら、意外と住みやすそうな場所じゃないの。あたいこういう地下遺跡っぽいところって結構好きなのよねー」
「……変態の好みは私のような常人には理解し難いな」
「2人とも喧嘩しないでくださいよ!」
「しかし相変わらず不気味ですね……お化けなんか隠れていないでしょうね……」
「しっかりしなさい、フィズリン。私の暗視には何も映らないわよ」
どうやら安全らしいことが判明したため、残りの5人も口々に喋りながらゾロゾロと中に入ってきた。だが次の行動をどうしたものか躊躇し、皆一斉に黙り込んだ。
「一体、どこに行けばいいんだ?」
須臾の沈黙の後、一同の想いを代表してシグマートが口を開いた。
「入り口の形はどれも同じようですね……臭いはどうですか、ダオニールさん?」
テレミンが手庇を作って観察しながら、先頭の人狼に問いかける。
「さぁ……どれも似たように感じますね。それぞれもっと奥まで入ってみないと細かい違いはわからないでしょうけど……」
ダオニールも自慢の鼻が役に立たず、気難しい表情を浮かべた。




