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カルテ453 エターナル・エンペラー(後編) その20

「まずキャッスル先生は、健常人に協力を依頼し美味しいハンバーグステーキを食べてもらいました」


「そんな協力なら普通大歓迎じゃないですか!?」


 ついついラミアンは突っ込んでしまったが、本多は首を横に振る。


「いえいえ、続きがあります。食後一時間後に協力者は胃の中身を吸い出されました」


「うっ」


 あまり汚い話に耐性の無い繚乱たる薔薇のごときラベルフィーユが口に手を当て身を屈めた。本多の口元にサディスティックな笑みが浮かぶ。


「すみませんねー、ご飯前には聞きたくないような話をしちゃって。続けて医師は、その胃液混じりのドロドロ物質を胃炎のある悪性貧血の患者に与えました」


「うげえ!」


 今度はラミアンも耐え切れなくなり顔をしかめ、話を聞くと言ったことを多少後悔した。


「おっと、もっともこんなもん直接皿に盛って食べさせたわけじゃなくって、チューブという曲がる管を使って胃の中に送り込んだそうですのでご安心を」


「先に言えよ!」


「ごめんなさいねー、ついうっかりしてました。ま、医学ってやつは時たまこういう突飛な治療法が出現するところが面白いんですけどねー、僕的には」


 本多はげんなりとした顔をした被害者二人に軽く頭を下げてお詫びしたが、ラミアンは、こいつ絶対わざとやらかしたなと胸中で確信した。


「で、そんなゲテモノ治療は患者たちに効いたのか?」


 もはや敬語を使うのも嫌になったラミアンは軽薄極まる医者を睨みつけながらも、律儀に質問した。


「よくぞ聞いてくださいました! 確かにそこまでして駄目だったら、無意味を通り越してひどいですが、素晴らしいことにちゃんと効果が認められました。もっとも同じ実験を、胃液だけの場合とハンバーグステーキだけの場合でも比較して行ったんですが、どちらも効きませんでした。つまりこれらの結果から、ハンバーグステーキまたは肝臓の中にある何物かと、正常な胃液の中に含まれている別の何かとが合わさって、初めて治療効果があると実証されたわけです。いやはや、医学ってのはこうやって一歩ずつ長い長い道のりを進んで現在のように発展してきたんですね……」


 本多の眼差しはいつしか悠久の時の流れを遠望する詩人のそれになっていた。

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