カルテ452 エターナル・エンペラー(後編) その19
「いいですか、続けますよ。さて、象牙の塔に住む無知蒙昧な医者どもが信じなくても、明日をも知れぬ患者たちはそんな悠長なことは言ってられません。藁にもすがる思いで助けを求めました。よって悪性貧血に関わる現場の医療従事者たちの間でこの新たな治療法は徐々に浸透していき、やがて実際に有効だということが判明してきました。何しろ生焼けのレバーを毎日食べさせるだけなんですからお金もそれほどかからずどこでも出来るしお手軽なもんですよ。僕はどっちかというとレバーよりも牛タンの方が好きですけどね。そういや最近行ってないなー、ああ、食いたい……ジュルッ」
本多は口腔内から溢れ出しそうな唾液のために一旦言葉を切って、行きつけの焼肉屋の秘伝のたれに漬けたり上にどっさり刻んだネギを載せて焼いた薄切りの牛タンを脳内で味わい、蕩けるような顔をしたので、ラミアンもつられてよだれを垂らしそうになったが即正気に返った。
「ホンダ先生、んなことはどーでもいいからとっとと続きをお願いします!」
「おっとっと。はいはい、つまり動物の肝臓に含まれる何かがこの難病を治すことと非常に関わりがあることがわかり、このことを実験で証明したマイノット君を含む3人の医者が、ノーベル賞っていう名誉ある賞を取りました。これで一件落着といけば良かったんですが、この病気の厄介なところは、原因はそれだけではないという点だったのです。さて、話についてこれますか?」
「「はい!」」
聴衆の二人は間髪入れず、ほぼ同時に即答した。もはや毒食わば皿までだ。
「おお、覚悟の決まった方々だ、面構えが違う! わかりました、一意誠心、地獄の底までお付き合いしましょう! 実はこのレバー療法は胃炎の強い患者に対しては何故か効果が無かったんですよ。そこでマイノット君たちが受賞する7年前、イギリスってボール遊びが盛んな国のウィリアム・B・キャッスルって医者が一計を案じました。これがまた変わっているんですよー」
意欲に満ちた聞き手を得て歓喜した本多の熱弁が加速してフルバーストに突入した。




