カルテ448 エターナル・エンペラー(後編) その15
「リラーックスリラーックス、とりあえず椅子に座って、僕の話の続きを聞いてくださいダミアンさん、そんなに怒っちゃダミアン!」
「ダミアンじゃなくてラミアンだ!」
「はいはいはい、そんな些細なことは置いておいてですね、当時はその疾患は原因不明の奇病で、どうやって治していいのか誰一人わからず、そんな絶望的な状況が80年ほども続いたんです。ただ、人類も無策ではなく、注意深く患者の状態を観察し、結果その期間にこの病気の三大症状である貧血、舌炎、そして神経症状が出揃いました」
「舌炎って……ひょっとしてこれのことですか?」
本多の解説を拝聴しているうちに易怒性の治ってきたラミアンは、明太子のように真っ赤っかになった自分の舌を前に突き出した。
「そう、まさにそれですよ。ウィリアム・ハンターって人が、患者の舌が真っ赤になり、炎症が生じると記録に書き残しているため、ハンターの舌炎と呼ばれるようになりました。すぐ休載する漫画みたいな名前ですけど……って意味わかんないですよね、こりゃまた失敬失敬」
頓狂な医者はお返しとばかりにペロリと舌を出すと、右手で自分のモジャモジャ頭をコツンと小突いた。盛大に置いてきぼりをくらったラミアンは、ただ呆然とそれを見守るのみだった。
「さて、この謎の疾患は貧血症状を起こすため、悪性貧血と名付けられました。但し、足りない血液を他の人から分けてもらう輸血という行為をしても助けられないことがわかり、中々打つ手がありませんでしたが、何か胃に問題があるらしいことが徐々にわかってきました。そして100年ほど前、停滞していた治療法に劇的な変化が起こりました。アメリカって国のマサチューセッツ総合病院の実習生ことジョージ・リチャーズ・マイノット君は、この病気の患者たちが肉類を嫌って食べていなかったことを突き止めました」
「えっ」
本多の思いがけない説明を聞き、ラミアンは驚愕のあまり再び真紅の舌を口の外に伸ばした。確かに彼はこのエルフの里ことアクテ村を訪れてから一片のクズ肉さえ口にしていなかった。
「さて、この事実を重く見た彼は、他の医師と共に、嫌がる患者たちに生焼けの肝臓を勧め、なんと45例を完治させました」
「ええええええ!?」
ラミアンの驚きは止まるところを知らなかった。




