カルテ443 エターナル・エンペラー(後編) その10
「ダオニールさんの無敵の人狼パワーでなんとかなりませんか? ほら、ミノタウロスとの戦いの時、僕を助けてくれたじゃないですか!」
ふと数日前の死闘を思い出したテレミンが、問題解決とばかりにたちどころに喜色満面となった。
「……さて、それはどうでしょうかね。この前のような岩場の崖ならまだ掴まりやすくて良かったですが、こんなツルツルの氷の崖が相手では勝手が違い過ぎて非常に厳しいと言わざるを得ませんね」
ダオニールは切り立った青い氷壁を凝視しながら低く唸った。
「うう……そちらの方々は何か斬新なアイデアは無いんですか!?」
吸血鬼チームの知恵袋にして懐刀のテレミンも八方塞がり状態で万策尽き果て、ついに情け無い声を上げた。
「そうは言ってもねぇ……人狼さんに登れないものが、あたいみたいな病弱な乙女じゃどうにもならないわよ〜」
「そうだ! イレッサさんの凄い魔法ならどうですか? 何か使えそうなのがあるんじゃないですか!?」
腐れ大根の妄言をスルーして、シグマートが期待に満ちた目を向ける。
「無理強いしないでよシグちゃーん、あいにくお空を飛ぶような素敵な夢魔法なんて持ってないわよー。あのグラマリールちゃんのようなでっかいワシさんを召喚する……っておっと」
「? 符学院の学院長先生がどうしたんですか?」
すかさず知りたがり屋のテレミンが首を突っ込むも、「な、なんでも無いわよ、グラマーなでっかい鷲掴みしたくなるわがままミラクルボディもいいわねー、ヌルフフフフ」と凍りかけのモヒカン頭は苦しげにごまかし笑いをした。
「相変わらず気色悪いやつだ……それよりもこの前みたいな津波の魔法でこのクレバス内を水で満たし、浮上するという作戦はどうだ?」
ミラドールがイレッサから視線を背けたまま、妙案を出す。
「おぅ、それは中々良さげですな、お美しいエルフさん!」
「まったくこのケダモノは……」
寒さに震えるフィズリンが人狼を横目で睨むも、ダオニールは気づかない様子だったので、テレミンはまた尻尾が踏まれないか他人事ながら心配になった。
「残念だけどあの特大魔法は一回切りなのよ〜。しかも、もし他の水系の魔法を使ったとしても、クレバス内の下の裂け目に流れこんでいくだけだから、無駄だと思うわ〜」
「……そうか、中々上手くいかないものだな」
ミラドールは力無く肩を落とした。




