カルテ442 エターナル・エンペラー(後編) その9
「で、こちら側の事情としてはそういったわけですが、時にあなた方はどうしてお告げ所を目指しているんですか?」
ひとしきり話が落ち着いた後、攻守交代とばかりに今度はテレミンが代表してミラドールに経緯を尋ねた。
「あー……そうだな……それには色々深い理由があって……」
いきなり振られた彼女はやけに口を濁す。自分たちの目的が、いくら正義のためとはいえ、天下に名だたる符学院を打倒し現在の秩序を破壊することであるとは、ちょっと簡単には言い出せない。一歩間違えばテロリスト扱いされて官憲に突き出されても文句は言えない立場だ。もっとも吸血鬼一行がそんな行動を取るとも考えにくいのだが、事は慎重を要する。
「それは無事にここを脱出出来てからねっとり話しましょうよー。さっきから時間がかかり過ぎよー。寒過ぎてあたいの大切なモヒカンヘアーが凍っちゃうじゃないのよー」
小刻みに震えまくっていたイレッサが、うまい具合に後ろから助け舟を出してくれたので、ミラドールはごく僅かばかりだが彼に感謝した。
「それもそうですね。夜も更けてきましたし。しかしどうやって?」
テレミンが上を向いて皆に問う。確かに深い氷の崖は、ちょっとやそっとの努力では攻略出来そうになかった。
「そうねー、例えばだけど、そこの大コウモリさんは人間を掴んでお空を飛ぶことは可能なのー?」
「おお、その手があったか!」
ミラドールが期待に満ちた視線を上空の影に注ぐも、返事はそっけなかった。
「……無理ね。以前穴兎族の幼児なら何とか運べたけど、それより重い物は正直難しいわ。私って非力なのよ」
「じゃあ、上の大雪渓に出て、どこかにロープを引っ掛けてくるっていうのはどうですか、ルセフィさん?」
「さっすがテレミンちゃんねー。ちなみにロープならあたいがいつも誰かを縛るために持ち歩いているわよーん。最近とんとSMはご無沙汰だけど」
「そんなために持ち歩くんじゃねえこの邪妖精が!」
「あーん、もっと言って頂戴!」
「仲良く語り合っているところ悪いけど、あの雪原のどこに結びつける場所があるのよ、テレミン!?例え杭を使うにしても、特殊なものが必要だと思う」
「うーむ……」
ルセフィにすげなく拒絶され、一同は頭を抱えた。




