カルテ434 エターナル・エンペラー(後編) その1
深き地底での陰惨極まる戦いは未だに続いていた。醜悪な腐った死体の群れは、洞窟の奥からアリの群れのごとくワラワラと溢れ出し、しかも倒しても倒しても立ち上がってくるため、不毛なことこの上なかった。
「思い出した! 確か奴らゾンビは痛みも何も感じないけど再生能力は無いから、動けなくなるくらい身体をバラバラにすれば良いそうです!」
ようやく敵の弱点を思い出した、緑色のコートと茶色のズボン姿の少年ことテレミンが大声で戦闘中の皆に伝える。
「ありがとうございます、テレミンさん。しかしそれは結構大仕事ですね……」
拳を固める人狼ことダオニールが、眉間にしわを寄せる。急所を叩いてもダメージをさほど受けない相手を行動不能なまでに分解するというのはかなり手間がかかるし、しかもその数は増える一方だ。
「あら、それは亡霊騎士並みに厄介ね」
「ルセフィもそんなところでのんきに見てないで、力を貸してよ!」
ついテレミンは、天井付近を優雅に飛行する大コウモリに向かって悲鳴を発した。
「ええと……何とかしてあげたいのは山々だけど、私そんな気持ち悪い怪物にあまり触ったり噛み付いたりしたくないのよ……ごめんなさいね」
「はぁっ!?」
吸血鬼の真祖とも思えぬなんとも情け無い返事が上から降ってきたため、テレミンは危うく音を立ててずっこけるところだった。
「そりゃないよルセフィ! いち早く変化して宙に逃れたのはそういうわけかよ!?」
「しょーがないわよテレミンちゃん。あたしも同じだからわかるけど、乙女心は繊細で複雑なのよ。察してあげなさい」
「どこが同じだどこが!? てかもうゾンビきちゃってるよ!」
「あらま、大変。まぁ、ここは一つあたいに任せなさい。グランダキシン!」
少年をたしなめる緑のトサカ頭のハイ・イーブルエルフことイレッサだったが、テレミンの注意に真面目顔になると右手を突き出しゾンビに向かって火球を射出した。たちまちその周辺だけが昼間のように明るくなり、敵の進行は一時的に弱まるも、完全に燃え尽きるには時間がかかりそうで、しかも煙の臭いは凄まじく、皆吸い込むまいと息を止めるほどだった。
「火葬は嫌だな……」
黒ローブ姿の少年、シグマートがボソッと呟いた。




