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カルテ432 幸運のカルフィーナ・オーブの災難(前編) その23

 まるでおとぎ話の一枚絵のごとく優雅に漆黒の夜を渡る銀竜は今や速度を存分に上げ、後数分で目的地に達しようとしていた。


「それにしても姉さん、さっきの垂直離陸緊急発進はひど過ぎるわ! マジで振り落とされて死ぬかと思ったわよ!」


 ようやく夜間の空中飛行に慣れて来たエリザスは、銀竜の上で搭乗運賃代わりにブツブツ愚痴をこぼしながら、夜風に乱れた前髪を整えた。


「フフッ、早く雲の上に出て姿を隠さねばと欲目を出して、ちょっと急いでしまったんですよ。まあ、そのついでに可愛い妹の必死に焦るところを見たかったってささやかな理由もありますけどね」


「やっぱりかよ! こっちは姉さんのローブも持ってるんだから加減してよ! うっかり落としたら森の中まで拾いに行かなきゃならないわよ!」


「それは困るけど、そういえば黒ローブといえば、昔ヘパロシアの実家で見かけたあの子を思い出しますね。今頃どうしているかしら?」


「さあね……っていうかあの家ってまだあるのかしら?私たち三人娘がそろってあんなことになっちゃったし……」


「……」


 二人の姉妹は同時に遥か彼方の遠い祖国を脳裏に浮かべ、しばしの間沈黙した。


 特に親不孝者の駄目デューサは、自分のせいで故郷に残して来た親がどうなったのか想像すると段々怖くなってきて、柄にもなく心臓が押し潰されそうに感じたため、不安発作を鎮めようと深呼吸し、遠くを眺めた。


「!」


 その時、彼女の常人よりも鋭敏な感覚が何かを捉えて危機を告げたため、ありったけの集中力を発揮して耳目をそばだてた。


「あれだわ! 姉さん、上!」


 エリザスは左手を突き上げると星々の瞬く方角を指差した。つられて姉竜もその美しく大きなかんばせを同方向に持ち上げる。


「ま、まさかあれは……エレンタール!?」


 エミレースは、この場にいないはずの、三姉妹の真ん中の名を呼んだ。そう、自分に騎乗するエリザスが、再び石化したために落下して地表に激突し、粉々に砕け散ったという妹の名を。獲物に襲いかかる鷹のごとく星の世界から飛来する客は、なんと瑠璃のように青く輝く一匹のドラゴンであった。

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