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カルテ45 閑話休題 その3 マンティコアとクローバー その2

「うぅぅ……もうルミエールに行けないよぅ……ロラメットの符学院にいる兄さんにも顔向けできない……」


「泣くなシグマート、天気の良い日のお空のお散歩は格別じゃろう。ほれ、もうすぐ目的地に着くぞい」


「ちったぁ反省しろこのボケ猫ジジイ!」


「し、しかし恐るべき人喰い魔獣のマンティコアがこんな変態だったとは……それはすね毛も剃れないわけだな。ライオンの毛のない足など気持ち悪いし……」


「なんか感心するところズレてますよ、ミラドールさん! で、この辺りでいいんですか?」


「ああ、ギャバロンの森の北東の方に、スィートクローバーの密生している場所がある。最近ご無沙汰だったが……上から見ると眩暈がしそうだな」


「よし、そろそろ着陸するぞい。皆しっかりつかまっとれよ!」


「うわーっ、急に加速しないでくださいよ!」


「ぐぇっ、吐きそう……やっぱりさっき殺しておくんだった、この害獣……」


「よーし、とうちゃーく!」


「「オエエエエエエエっ!」」



「ああ……昼間っからワインなんか飲むんじゃなかった……うぇっ!」


「結構お酒好きだったんですね、ミラドールさん……」


「しかし二度と空中飛行は御免こうむりたいものだな、どんなに早く着いたとしても……」


「なんじゃ情けない、ラボナール平原の竜巻地獄に比べれば、これくらい屁みたいなもんじゃがのう」


「そんな災害と比較するな!」


「で、どこに生えているんですか? まったく見当たらないんですけど」


「坊主の言う通り、クローバーなど欠片も生えておらんのう」


「バ、バカな! 確かにここだったはずだ!」


「よく見ると、なんかいっぱい引き千切られたような跡がありますよ。他の種類の草は残っているし、明らかに選んでますね、犯人は」


「クローバーだけ好きな動物が、食い尽くしたのかのう?」


「そのような動物は、聞いたことがないが……ん、何か周囲に足跡があるな。これは、靴を履いてないし、人間や妖精族のものではなさそうだが、二足歩行で、結構歩幅があり、爪痕も残っている……間違いない、獣人族だ!」


「さっすが狩人さん、よくわかりますね」


「そういや確かに周囲に獣くさい臭いがするのう……そこの茂みの中じゃな、大人しく出て来い!」


「ひゃ、ひゃいっ!」


 可愛い声とともに、最初にピョコンと飛び出したのは、二つの白い長い耳だった。


「ウ、ウサギ!?」


「いや、普通ウサギは喋らないぞ、少年」


「食べないから出ておいで、ウサギちゃ〜ん。でないと我輩の下半身のぶっといのから一発お見舞いしてやるが良いかのう?」


「誤解を招くような表現はやめてくださいエロジジイ! 尻尾の毒針って言いなさいよ!」


「ほ、本当に食べませんか……?」


 恐る恐る姿を現したのは、頭部はウサギそっくりだが、身体は小柄な人間タイプの、若草色のワンピースを着た、全身に白い毛の生えた雌の獣人だった。


「ウサギの獣人さんか……初めて見ましたよ、僕」


「確か長が一族を率い、地下に大きなトンネルを掘って住むという穴兎族だな。この辺りでは珍しいが……」


 ミラドールが、細い目を心持ち大きく広げる。


「ラボナール平原でなら、たまに見かけたことがあるがのう。何匹か食ってやった記憶があるわい。しかしなぜこんなところに迷い込んで来たんじゃ?」


 フシジンレオが、獅子らしくたてがみを大きく広げながら詰問する。


「ひ、ひぇぇ……」


 しかし、哀れな獣人の方は怯えて立ちすくみ、まともに返事もできない状態だ。


「貴様ら、リルピピリン様に何をする!」


 急に森の奥から、まさに脱兎のごとく、もう一頭の穴兎族が凄まじい速度でかけてきた。どうやら雄のようで、黄土色のチュニックとズボンに身を包み、両手に一匹の赤ん坊の穴兎族を抱いている。


「ほう、我輩のこの姿を見ても恐れぬとは、勇気のあるウサギさんじゃのう。このメスウサギちゃんは、ひょっとしてお主のこれか、ん?」


 色恋沙汰には勘のいい邪悪なマンティコアが赤い前脚を掲げ、爪を一本立てるような真似をする。


「彼女はおいらの大事な人だ! おいらは偉大なる穴兎族の戦士・アカルボース! そして胸に抱きしはおいらと彼女の子供・ダイドロネルだ!」


「ウサギのくせにやけに仰々しい名前じゃのう」


 フシジンレオが場違いな感想を述べる。


「そういえば穴兎族は姿形で他の種族に舐められないように、仰々しい名前をつける風習があると聞いたことがあるぞ」


「へーっ、面白いですね、ミラドールさん」


「くっ、バカにするなぁっ! よーしよしよし」


 偉大なる穴兎族の戦士とやらは、突如ライオンに出くわしたので火がついたように泣き叫ぶ赤ん坊を必死にあやしながらも、攻撃的な態度を崩さなかった。

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