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カルテ428 幸運のカルフィーナ・オーブの災難(前編) その19

「やっと思い出したわ姉さん! キャベツよ!」


「「「「キャベツぅ!?」」」」


 歓喜に震えるエリザスの発した不意の一撃に、吐血する少女を除いた四人は異口同音にオウム返しをした。だが、その後、彼女が本多の長話をなんとか要約して皆に伝えた結果、全員納得すると同時に、皆の表情にかかった暗雲は吹き飛び、各々の顔を真昼の太陽のように輝かせた。


「そうか! つまり村長さんちまでひとっ走りして夜分恐れ入りますが突如キャベツを鍋に入れて食べたくなりましたとかなんとか言ってドカンとおすそ分けして貰えばいいわけだな!」


「そこは正直に理由を言えば良くないかニャ、ダイフェン?」


「んなもんどっちでもええわい! よし、任せい! ワシがさっそくダッシュで行ってくるわい!」


「あんたはこの中で一番足が短いんだから駄目に決まってるニャ、バレリン! あたしが出かけるニャ! こう見えても夜目が利くニャ!」


「いえ、皆さん、私が参ります」


 威厳を持って朗々と響き渡るこの家の主人の声が、争うように我先にと戸口から飛び出そうとする慌て者どもを押さえつけ、足を止めさせた。


「ええっ、何でよ姉さん!? あなたはここに残ってカナリアちゃんの様子を診てあげないと……」


「エリザス、忘れたのですか? 私が一体何であるかを」


 古代の石碑を彷彿とさせるエミレースの灰色の瞳が妹を力強く見つめる。圧倒的なその眼力はメデューサの魔眼にも引けをとらぬほどで、並の者なら一瞥されただけで血も凍るほどの威力を秘めていた。


「そ、そうか! からしのま……っておっとっと」


 うっかり禁断の単語を口にしかけたエリザスは、急いで自分の手で唇を塞いだ。確かにエミレースが銀竜化すれば、空路を直線状に突き進むわけだから徒歩で一時間以上かかる村長宅までも、おそらくものの10分とかからないだろう。確かに最速の交通手段だ。だが……


「時は一刻を争うわ。間違いなくこれが最善策よ」


「で、でも姉さん、もし、その姿を……」


 そこまで言いかけたエリザスはちらりと横目でカナリアを見やり、とても話の聞ける状態ではないと判断してから、小声でそっと付け加えた。


「でも、もしも誰かに見られたらどうするのよ! ただじゃすまないわよ! ここに住めなくなっちゃうわ!」


 しかしエミレースは余裕の笑みを口元に浮かべていた。

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