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カルテ421 幸運のカルフィーナ・オーブの災難(前編) その12

「おっ、急に天啓が降ってきたぞい! こういうのはどうじゃ?」


 突然ドワーフが分厚い手をパチンと合わせると選手交代とばかりに挙手した。


「どうぞ、バレリンさん。何か思いつきましたか?」


「上から駄目なら下からってことで、いっそ下剤で全部出口まで押し流すってのはどうじゃ? 下剤、あるんじゃろ?」


 先ほどのダイフェンを見習ってドワーフもウインクをかましながら顎をしゃくって棚を示す。もっとも色男とは異なり単に気持ち悪いだけであったが。


「ええ、下剤関係は座薬はありませんが内服薬や浣腸剤を取り揃えています。因みに浣腸剤は油や牛乳や卵黄などを混ぜて作ったものですね」


「なんだか聞くだけですごく美味しそうだニャ!」


「おいおい、そんなもの食べるんじゃねえぞ、ランダ……」


 動物性タンパク質を好む猫獣人がとんでもないことを口走ったため、夫にギョロ目でにらまれた。


「ほうほう、じゃあそれを使えば……」


「いえ、それはこの場合最悪の手法です。腸管は全長が人体の数倍にも及ぶ大トンネルです。その中を無数の水晶の欠片が無秩序にずっと下流まで下っていくんですよ。どうなると思います?」


「お……おうふ」


 ドワーフの分厚い額に脂汗がじっとりにじむ。丸芋のような尻がひくついているのは、その惨憺たる結果をつい想像してしまったからに違いない。


「うーむ、つまり詩的に表現すると、二度とお花摘みに行けない身体になってしまうわけだな」


「隠語を使っているだけでこれっぽっちも詩的じゃないニャ、アホダイフェン!」


「す……すんません」


 今度は逆に駄目夫が妻に険のある口調で咎められて小さくなった。似た者夫婦め、と蚊帳の外だったエリザスは内心突っ込んだ。


「うぐう……ワシも名軍師とはいかんかったか……」


「しょうがねえよ、バレリンさん。俺たちじゃ攻め落とせねえよ、この難攻不落の要塞は」


「それにしても、さすが第二の白亜の建物の盟主なだけあって的確な分析ね、姉さん。でも、あれも駄目、これも駄目じゃにっちもさっちもいかないわよ! 本当にどうしたらいいの!?」


 ようやく絞り出した意見を総ボツにされた三者を代表し、逆にエミレースに問い返しつつ、焦燥感をあらわにする。彼女たちが無駄な議論を交わしている間にも、カナリアの流血は治らず、全身に細かい震えが生じていた。

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