カルテ419 幸運のカルフィーナ・オーブの災難(前編) その10
「どどどどどぶろくドワーフ、じゃなかったどどどどどうしてそんな奇天烈なことになったんじゃ!?」
メンバーの中では普段は割と冷静な方のバレリンまでもが泡を食って、ランダに掴みかからんばかりに暑苦しい肉体を肉迫させる。
「わかんニャいニャ! でも、あの玉を身に着けてずっと一緒にいたいとか遊んでるときには喋ってたけど……」
「そんな……私が余計なことを言ったから……」
「エリザス! ネガティブになってへこんでる場合じゃないわ。今すぐにでも何か対策を考えないと! しっかりしなさい! 私の役に立ってくれるんでしょ!?」
「そ……そうね。その通りだわ」
後悔の泥沼に沈み込みそうになっていた駄目デューサだったが、姉の力強い激励で気を持ち直し、あらん限りの知識を総動員して状況を分析し、難解な計算問題に対するように解決法を導き出そうと努力する。ランダに背中をさすられている哀れな少女は小鳥のように小さな胸を手で押さえ、苦しそうにえずいている。その下に広がる金粉混じりの血だまりの海を見ると久々に不安が高まり魔獣へと変貌しそうになるからなるべく視線を向けないよう努めているうちに、エリザスはそれこそ吐血に塗れたあの符学院での運命の夜の事を思い出した。
「そうだ! 私の頭髪のへ……じゃなくってナイシキョー的なアレをカナリアちゃんの口から潜り込ませて水晶玉の欠片を取り除けばいいんじゃないかしら!?」
「そ、そうか、その手があったか! い つだったか俺にもやってくれたしな!」
「そうじゃのう、試してみてもいいかもしれんのう。もっともあの時は石化しないか冷や冷やもんだったわい……」
「結局あの後皆石化してしまったじゃニャいか!」
吠えながらつい力んでガッツポーズするエリザスに周囲のギャラリーも(ほぼ)好反応だった。しかし……
「いいえ、それは無理よ、エリザス」
皆の喜びに満たされた空気を切り裂くように、エミレースの鋭利な声が室内に響く。
「ど、どうしてよ、姉さん!?」
「落ち着いて考えてみて。あなたのアレがいくら優秀だと言っても、彼女の小さくて狭い喉を通って細かい破片を全て取り除くなんて不可能だわ。逆に欠片を食道に押し付けて、もっと傷つけてしまうことになると思う」
「た、確かに……」
駄目デューサはやっぱり駄目だった。




