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カルテ417 幸運のカルフィーナ・オーブの災難(前編) その8

 想定外の恐るべき大惨事が出来したのはその日の夕食後、皆がくつろいでいる最中だった。


「フー、食った食った。バレリン、あんた本当に料理うめーな。店開けるレベルだぜ」


 椅子に座って腹鼓を打ちながら、ダイフェンが満足げにゲップを一つする。


「そりゃもちろんエール造りの天才だからして、酒に合った料理をこしらえるのも得意技なんよ、ワシ。もっとも最近は禁酒しとるが……」


 太鼓腹のドワーフも対面の椅子に腰かけ手製のコップに入った水をグビッと飲み干す。エリザスとエナデールは向こうの寝室で何やら話し合っており、キノコばっかりの鍋なんか食えるかと言って謎の干し肉を齧っていたランダは、同じく少食のカナリアととっとと食事を切り上げると、床で一緒に玩具で遊んでいた。気だるい空気が室内に充満し、時間はゆっくりと水飴のように流れていた。


「平和を絵に描いたような実にいい夜だな……いつまでもこんな日が続けばいいのになぁ」


 ダイフェンがかつてなく優し気な視線で、キャッキャッと戯れる子猫のような彼女たちを見つめる。


「おいおい、どうしたんじゃ、吟遊詩人殿? 何か気がかりなことでもあるんかいの?」


 手酌で水差しからコップに水を注いでいたバレリンが、さっそく突っ込みを入れる。


「いや何、外の世界じゃ国同士がにらみ合って様々な動きがあるっていうのに、ここはまるで別世界だなと思ってさ。俺も職業柄ちょっとは噂話を知ってんのよ」


「ほう、そうか。確かに最近魔物の動きが活発化しているとは聞いとるがのう」


「俺も半信半疑だったが、あちらの姉妹の真実を知って確信した」


 バレリンは髭の生えた尖った顎先で寝室の方をクイっと指し示す。


「まさか……」


「ああ、あれは間違いなくインヴェガ帝国のクソ野郎が絡んでいやがる」


 ダイフェンは瞳に暗い蔭を揺らめかせながら、自信に満ちた声で答えた。


「ほう、さすが名にし負う吟遊詩人殿。現実に隠された物語を読み解くのが得意なようじゃな」


「ちゃかさないでくれよ。俺の考えじゃ、やつらは密かにこちら側に魔物をばらまいて人々の不安を煽り、また兵力を無駄に使わせ、エビリファイ連合が疲弊していくのを虎視眈々と狙っているんじゃないかと思うんだよ」


「なるほどのう、確かにエリザスの姉二人だけでもかなりの被害が出たそうじゃし……っておっと」


 バレリンは石化されてはかなわないとばかりに慌てて毛深い手で自分の口元を塞いだ。

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