カルテ412 幸運のカルフィーナ・オーブの災難(前編) その3
「余計なことするなよバレリン! マタタビは猫には酒以上に危険なもんなんだぞ!」
「何を言うか!せっかくワシが見つけたのに……」
「貴方たちちょっと静かにしてください。診察出来ませんよ」
隣の寝室から、城の石壁を覆う雅なタベストリーのように、一見美しいが裏側に強い意志を秘めた女性の声が響いてきたので、一触即発状態だった彼らは一斉に押し黙った。この家の主ことエナデール……本名エミレース・ラブグッドその人である。今日は彼女による月一回のピートル少年の定期検診の日あった。
ちょうど一か月前に住人が突如4人も増えたため、彼女は食堂兼居間を居候たちに明け渡し、寝室を整理して診察室としたのであった。ちなみに彼女の影武者にして忠実な部下の元人形のエナデールは現在大きな箪笥の中で直立不動の姿勢で待機中だ。
「とりあえずお前ら、すぐにキノコと木の実を拾い集めてくれ! 但しまた怒られないようにソーっとやるんじゃぞ!」
「「「ラジャー!」」」
バレリンの小声の命令に従い、彼自身とダイフェンとエリザスとランダと、ついでにカナリアまで床に這いつくばり、速やかに作業に取り掛かった。もっともランダはすでに千鳥足だったため、明らかに戦力外だったが。
「あれあれ皆さん、日向ぼっこ中のトカゲみたいな格好してどうしたんですか?」
奥から麦わら帽子を装着したてのピートルが、ひまわりみたいな明るい顔を覗かせる。今日も診断結果は上々だったのだろう。
「いやなに、ちょっとうちで飼ってる酔っ払い猫が粗相してやらかしちゃって……」
「何言ってるんだニャ、ダイフェン! いつもやろうって誘ってくるのは誰ニャ!?」
「こんな公衆の面前でよせよ、酔っ払い猫じゃなかったランダ!」
急にキョドったダイフェンが、ようやく集めたキノコを手から取り落す。
「まったく、家の中は人が多いからって屋根に登ってやるニャんて……」
「本当にそれ以上はやめてくれ! 頼む、俺が死んでしまう!」
「あんたらそんなところでしてたわけ!? 嫌ああああ! 汚いわ!」
「まあまあ、発情した猫にとってはよくあるぞい、エリザス。そういえばこの前夜中に天井からドンドンと激しい音がしたのう……」
「何ですって!?」
「バレリン口を閉じろ! エリザスの眼が赤く変わりかけてるぞ!」
ダイフェンは以前石化された記憶が蘇り、恐怖に慄いた。
こんなアレな引きですみませんw




