カルテ411 幸運のカルフィーナ・オーブの災難(前編) その2
秋も深まり冬の気配がひしひしと近付いてきたアモバン山脈のタガメット山山中の森を、二人の人影が開けた場所に建つ一軒の小屋に向かって歩いていた。目的地に到達した彼らはドアを開けるなり手にした籠を床にドサッと放り投げた。
「ただいまーっ! あー、疲れたぜー! 多分食べられるやつばっかだと思うが、運悪く当たっても俺を恨むなよ……」
「ほーい、今帰ったぞーい……ってこれはサボテンではないか! 凄いのう! 一体どうしたのじゃ、これ!?」
吟遊詩人の優男のダイフェンと共にキノコ狩りから戻って来たドワーフのバレリンが、室内に鎮座する鉢に植わった異形の植物を見るなり駆け寄った。植物は緑色で所々に棘があり、扇のような形をした緑の分厚い葉が何枚も生えていた。
「お帰りなさい、二人とも。さっき珍しく行商人の人がこんなところまで来て、カナリアちゃんのご両親に言付かったってことでいろいろ珍しい品物を届けてくれたのよ」
留守番をしていた白いワンピースを着た金髪の美女ことエリザスが、テーブルの上の様々な小物に興味津々の、傍らの5,6歳程の少女の頭を黄色い帽子の上から優しく撫でる。亜麻色の髪(現在やや薄いが)の少女カナリアは、ここグルファスト王国のポノテオ村から遥か離れたミカルディス公国の出身なのだ。
「見てよエリザス姉ちゃん! これとってもきれい! 回すと色と形がどんどん変わるよ!」
椅子に腰かけたカナリアは、紅葉のように小さな手で丸く赤い筒をクルクル回転させながら真剣に中を覗き込んでいる最中だった。
「お、そいつは万華鏡ってやつだな。噂に聞いたことあるぞ。なんでも中に鏡とビーズの粒が入っているとか……」
意外と物知りなダイフェンが、バレリンと一緒に玄関で靴に付いた泥を落としながら豆知識を披露する。結構得意げだ。
「凄いけどめまいがするニャ、ダイフェ~ン!」
「うわっ、どうしたんだ、ランダ!?」
さっきまで万華鏡に夢中になっていた虎猫族の女性ことランダが、酔っぱらったようにフラフラと歩き、床に置かれたキノコの入った籠にぶつかり中身を全てぶちまけた。
「おい、気をつけろよ! てかこれマタタビの実も入ってるじゃねえか! 誰だよ!?」
「おお、すまん、ワシじゃ。それは食べると精が出るし、酒に付けても美味いぞい」
元名杜氏のドワーフがにんまりと笑ったが、ダイフェンの怒りの火に油を注ぐ結果となった。




