カルテ409 ライドラースの庭で(後編) その79
また、今まで白亜の建物を商売敵扱いしていたが本多の数々の言動によって目が覚めた。人心がライドラース神殿を疑っているなら、当方は外科的治療においては並ぶものがないことを強調し、またこれからは法外な寄付を要求しないと宣誓すればよいのだ。どうせもう聖なる水は販売できないのだから。そして、身体の病について治す正しい方法を、今度は詐欺などではなく真剣に考え、実直に探っていくことを検討すべきだと悟った……自らの身をもって。
(今後はこれを方針の一つとするべきかもしれん……後継者も正式に決まったことだしな)
そう、彼の密かな悩みでもあった自分の後継ぎも、今宵ライドラース神自らの太鼓判によって妹のハーボニーに正式決定した。何度も言うが神の決定は絶対であり何人たりとも口をはさむことは出来ない。これで彼は今後起こるであろう後継者をめぐる争いのことに悩まされず、先の事を考えることが出来る。これも本多の口利きのおかげと思うと、結果的に悪いことばかりではなかったのである。
「多飲症は心のストレスが原因って方も多いですから、出来るだけリラックスしてくださいねー」
透き通るような朝日の中で、本多が別れ際に言い残した一言を彼は咀嚼していた。
(そうか、俺の重荷を強引に取り除くことによって心労を減らそうという遠大な腹積もりだったのか……悔しいがあんたにお礼を言うべきだろうな。本多先生、ありがとう)
ジオールは正殿の方に向けて軽く頭を下げた。ブレオは意味がわからず自分の寝不足のせいだろうということにした。
(そして、まさかとは思うが、あの黒装束の本業は、実は傭兵なんぞではなく……)
これこそが、ジオールの爆笑した原因の大きな要因でもあったのだが、確かめるすべは既になかった。
燃えるような朝焼けを反射する真っ赤な川沿いの土手を、革袋を持った一人の黒装束がのんびりと歩いていた。言わずと知れたノービアである。かの地下通路はつまりは排水溝を広げたものであったため、結局は神殿の近くの川にまで通じていたのである。
「やれやれ、すっかり泥だらけっスよ。しかもこの金を全部元の持ち主に返すまでが仕事だなんて、未来の神官長さんも人使いが荒いっスよねー、なぁ、カンサイダスちゃん?」
彼はブツブツと尻ポケットで眠るネズミに話しかけていたが、ふと目尻を下げて、いつものにんまり顔に戻った。
「それにしても本多先生は噂以上に面白い人だったっスねー。またいつか会えるといいっスねー」
そう言うと彼は曙光に輝く土手の上で陽気に鼻歌をかなでるのだった。
というわけでやーっと「ライドラースの庭で(後編)」が終わりました!ブラボー!皆様、八万字近くもかかって本当に申し訳ございません!(今年正月からずっとこればっか書いてたよ…)今度からはもう少し短くなるよう気をつけます!次回から三回はちょっと息抜きに異世界医院イラスト特集です!ではまた!




