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カルテ408 ライドラースの庭で(後編) その78

 ジオールは一人狂ったように呵々大笑していた。こんなに笑ったことは久しくなかった。一体いつ以来か、彼自身記憶にないくらいである。


(なぜ俺はこんなにもおかしいんだろうか? 散々な目にあったというのに)


 身をよじり、涙を流しながらも彼は頭の片隅で自問した。


 先ほども思い出し激怒したほど、今晩の出来事は最悪といっても過言ではなかった。今までの詐欺行為を暴露され、神の御前で屈辱を受け、偉大なる権能を失い、信頼していた妹には裏切られ、そして更に今大切な金まで全て奪われた。いかにノービアの最後のいたずら心がツボにはまったとはいえ、ここまで度を過ぎて爆笑するほどのものではない。


 だがこれまで怒りと絶望と疲れに支配されていた心が、奇妙なことに笑えば笑うほど洗い清められていくように感じられ、考えを整理することが可能となった。本多医師、慈愛神ライドラース、そして傭兵ノービアですらも……彼らは想像以上に上手だった。今まで誰にも負けたことのない自分が、自分などとは比べものにならないほどの、さっき思ったよりもはるか高みにそびえる知に完膚なきまで打ち負かされたことによる爽快感のようなものが全身に満ち満ちていた。


(そう、例えば巨大な山脈を仰ぎ見た時や崖の上から底知れぬ滝壺を覗き込んだ時、人は只々自然の驚異に圧倒され、己の矮小さを知るが、それに似ているのかもしれん……)


 改めて振り返ってみると、結局もとより勝ち目などなかったのかもしれない。悔しいが彼我の差は誰が見ても明らかだった。地頭が賢い彼にはそのことが、憎しみのヴェールを脱ぎ去ってみて初めてよく理解できた。もはや白亜の建物に対する長年の憎悪は氷解していた。


(俺ははなから負けていたのだ……慈悲の名の元に)


 そして他にも気づいたことがある。確かに今回の件は悪いことではあったが、単純にそれだけではなかった。


 まず、最近何故か多かったジオールの頭痛や不快感の理由を本多は明らかにしてくれた。要は水を飲み過ぎるのを我慢すればよいだけなのだ。こんな単純なことでよいのかといささか拍子抜けしたが、意思を強く保たねばならないと思えば、意外と大変かもしれない。彼はギュッと厚い唇を引き結んだ。

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