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カルテ398 ライドラースの庭で(後編) その68

「やれやれ、発情したウサギ並みに飛び跳ねそうに嬉しそうなところ水差して悪いっスけど、ちーっと違うっスよ、ジオールの旦那。惜しかったっスねー、じゃあ、不正解ってことでそこの袋はありがたく頂戴していくっスよ」


「なんでじゃ!? 誰が貴様なんぞに渡すかぁ! これでも喰らえ!」


 じわじわと迫りくる悪夢のようなひょうげものの要望を頑なにつっぱねながらも、ジオールは天井から壁沿いに垂れ下がっている赤い房の付いた茶色い紐を力の限り引っ張った。途端にガランガランという鼓膜を突き破らんばかりの鐘の音が鳴り響き、夜のしじまを突き抜けて放射状に広がっていった。およそ神殿中の生きとし生ける者はことごとく強制的に眠りを破られただろうと思われる威力だった。


「おおう、そんな仕掛けまで仕込んであったんスか! さっすが白亜の建物の医師をも唸らせる奸佞邪智に長けた大神官様っス!」


「ええいうるさい! 貴様の誉め言葉なんぞかえって虫唾が走るだけだわ! もはや逃げ道はないぞ痴れ者め! この神殿の鐘はロラメットの符学院にある護符師の鐘ほどではないが、それでも全神官に危機を知らせるには充分なものだからな! 速攻で皆この部屋に集まって来るわ!」


「ほへー」


 初めてノービアをやりこめたと確信したジオールは有頂天になり、団子鼻を精一杯高くした。


「だが最後に正直に答えるのならば、温情で命ばかりは許してやろう。貴様の裏にいる黒幕とやらは、一体何処のどいつだ!?」


「そりゃーすげえ簡単な話っスよ。さっきお会いしたばかりの旦那の妹君こと、ハーボニーさんに決まっているじゃないっスか! まーだわからなかったの?」


「……はっ!?」


 一瞬ノービアのゲロッた名前が理解できず、ジオールは革袋を拾い上げる途中のポーズで硬直した。信頼していた身内に裏切られたショックで、頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなったのだ。だが、衝撃が波のように引くと何かの聞き間違いではないかと思い直し、息を吸い込み大喝一声した。


「バカを言うなバカを! 一時耳を疑ったが、そんなことあるわけがなかろう! 貴様の口からのでまかせなぞ誰が信じるものか!」


「へー、よくそんな自信満々に言えたもんっスねー。全く心当たりがないとでも?」


「うっ」


 ノービアの含み笑いに再び言葉を無くすジオールだった。

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