カルテ395 ライドラースの庭で(後編) その65
「落ち着けノービア、まあ、俺も実際に行ったことはまだないが、別れた嫁や娘と寄りを戻す方法とかあるのならば、是非聞いてみたいものだな……」
「そんなの僕だって聞きたいですよ、ブリブリ博士さん! ぐおおおおおおおーっ!」
「うげぇ、何をするてめえ!?」
いつの間にかハンカチを手にして出し抜けに号泣し始めた本多がブレオのごつい手を勝手に握りしめたため、腹部に蹴りを喰らう羽目になった。
「ぼげええっ! せっかくなんかいい感じでまとまりそうだったのにひでえ!」
「本多先生、お戯れの最中誠に気の毒ですが、もういい加減にお開きの時間です」
まるで自分の部屋で友達と仲良くゲームしながら盛り上がっているところに解散を言い渡す冷酷な母親のごとく、赤髪の守護女神が氷の声で告知する。どちらが経営者でどちらが雇用者だかわからないほどの力関係だな、と本多医院側でない者達は皆思った。
「おっとっと、もうそんな時刻ですか。確かに今宵は面白過ぎていささか長居し過ぎてしまいましたね。それでは皆さんごきげんよう。また逢う日まで……って残念ながらシステム上二度とお目にかかれませんけどね。ハバグンナーイ! アウフビーダーツェーン! アデュー! シェーン、カムバーック!」
『では私もこの辺りで失礼します。神と言えども眠りを取らないと生存できませんので……』
今度こそ別離の声と共に、神聖なる気配が急速に薄れ、人界と神界を隔てるヴェールの向こうへと遠ざかっていくのが皆にはっきりとわかった。
「さあ皆さん、そういうわけですので、出口へどうぞ。ジオールさんも今点滴を抜去しますので少しお待ちください」
「はぁ……」
「そんじゃホンダ先生、お休みなさいっスー!」
「戻って寝るか……」
神と対話していた時のシリアスモードから完全に通常のおちゃらけモードへシフトした本多がひらひらと片手を振り、ユーパン大陸側のジオールを抜かした三人はセレネースに誘導されて、ぞろぞろと診察室を出ていった。それを呆然と見送っていたジオールだったが、何の疼痛も感じずに速やかに点滴の翼状針を抜き取られ、その腕前に感嘆すると同時に、いよいよ去るべき時が来たことを知った。
「じゃあ、ジオールさんも帰ってクソして歯磨いてとっとと寝てくださいねー。本日はどうもお疲れ様でしたー。あっ、そうそう、いい忘れるところだったわ!」
最後の最後まで無礼な医者は、なにやら書類に書き込みながら、ちらっと振り返ると、にっこり笑って似合わぬウインクをした。
「多飲症は心のストレスが原因って方も多いですから、出来るだけリラックスしてくださいねー」




