カルテ393 ライドラースの庭で(後編) その63
「おおっと、もうこんな時間ですか!? いかんいかん、草木も眠り過ぎて起きちゃいますよ! ま、普段だったらセレちゃんを指して、『この人によく似た人をどこかで見たことありますか?』って患者さんに聞くんですけど、あなた世界を見通す神眼なんてゴイスーな代物をお持ちだそうですから、直接うかがった方が早いかって思いましてね。ズバリ聞きますけど、彼女にそっくりな人はここユーパン大陸側の世界のどこかに存在しますか?」
セレネースに強制的に残り時間の少なさに気づかされた本多は、無駄話なしに一気に本題へと切り替えた。彼の台詞は普段と異なり炎のような有無を言わせぬ力強さを秘め、頭に付いた汚いゴミを手で拭っている最中だったジオールが思わず瞠目したほどだった。
(そういえば、聞いたことがある……)
ジオールは本多の意味不明な質問について考察しつつ、市井の胡散臭い噂話を思い出した。なんでも白亜の建物の主たる医師は、何年もの長きにわたって、とある人物を探し求めているらしい、という……ならば、自分は今、伝説が動く瞬間を目の当たりにしているというのか!?
『……誠に相済みませんが、答えは否、です、本多先生』
だが、返って来た慈愛神の回答は期待外れでにべもないものだった。
「そ、そんな! ライさんこそが最後の頼みの綱だったのに! 今までずっとずーっと大陸中をうろつき回ったんですよ! 今後一体どうしろっていうんですかあああああああああ!? うう……」
珍しく本多の声が悲嘆に満ち、哀哭へと変わる。聞く者の内臓が引きちぎれそうな、正に断腸の叫びだった。
『……無念ですが、先ほど先生もおっしゃった通り、たとえ神と言えどもその能力は決して万能ではないのです。あなたが大切な娘さんのことを長年探しておられることは十分承知しております。この世界の者を代表して力になりたいとは思いますが、我が神眼をもってしても見つけ出すことはかないません』
(娘、だと……!? この素っ頓狂で礼儀知らずな男に子供がいるのか!?)
完全に聞き役に徹していたジオールは、ライドラース神の告げる新事実に少なからず驚いた。白亜の建物の医師の子供がこの世界の何処かにいるなど、想像だにしたことがなかったから。
すいませんが次回更新は一週間後の9月6日の予定です!ではまた!




