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カルテ387 ライドラースの庭で(後編) その57

「我々兄妹二人の母は、先ほども兄が言った通り私を産んだ直後に身まかりました。そのため兄は出現することの無かった白亜の建物を骨の髄まで憎み、その存在を価値無きものにしようという企みもあってこの神殿の門を叩き、首尾よく出世の階段を駆け上がって神官長へと至りました。そして今明かされた詐欺師のような卑劣な手段で大金を手にしました」


 彼女はそこで一息入れると瞳に更なる力を込めた。ジオールはその視線に耐えられなくなってきたのか、ややうつむきがちになっていた。


「確かにこれはどう弁護しても許されたものではありません。ですがその金銭は神殿の諸経費以外にも、我々の故郷のタケルダ村に密かに送金され、病気で働けない者や、親を亡くした孤児たちなどを救うために使用されていたのです。また、それまで全く教育というものの無かった我が村に、はるばる遠くから教師を招いて無学な子供たちや希望者に読み書きや計算を教えるための施設を造ってくれました。そのおかげで私は僻地に住みながらもこうして人並みの学問を身に着けることが出来たのです。また、自分以外にも彼のおかげで都会に出て職を手に入れ、活躍している者もいると聞き及んでおります。私はそんな兄を、問題はありこそすれ誇りに思っております」


「そ、そうだったのか……!」


 ブレオは人知れず声に出してつぶやいていた。ジオールの秘密の慈善事業にも驚いたが、以前から、神官長と副神官長の間には業務上の繋がりはあっても表面的なもので、むしろ時々ハーボニーがジオールをあからさまに軽蔑しているかのような仕草も見られたため、そこまで信頼関係は無いものと勝手に推測していたのだ。しかしそんな浅はかな考えが完全にお門違いだったと知って立ち眩みを起こしそうな気分だった。二人には些細な感情を乗り越えた強い絆があったのだ。


「決して、決して私利私欲のために行っていたわけではないのです。何卒、何卒慈愛神の名に懸けて寛大なるご配慮を!」


『……』


 大いなる沈黙が診察室に満ち、全てを支配した。もはや場の緊張感は限界を超え、空気が針のようにジオールの厚い皮膚を刺し貫いた。

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