カルテ378 ライドラースの庭で(後編) その48
「ほいほい、騒がしい人ですねーって僕もあまり他人のことは言えないんですけど……今説明しますよ」
本多は苦笑しつつもノービアの質問を受理し、姿勢を正した。
「いいですか皆さん、この病気の正式名称は『頸部リンパ節結核』と言いまして、僕の国では古来は『るいれき』とも呼ばれていました。これは結核菌という目に見えないほど小さい微生物が人から人にうつって体内に侵入するため起こります。今でも不衛生なところでたまに見かけるのでなかなか根絶出来ないんですよねー。さて、この菌が肺の方に行きましてリンパ節っていう小さい豆みたいな場所に住み着くと肺門リンパ節結核といって非常に重篤な肺の症状を引き起こし、いわゆる肺結核ってやつになりますが、中には『俺はせっかくだから赤の扉……じゃなかった首の方を選ぶぜ!』ってな捻くれ者の菌もいまして、そいつが首の方に行きましてやはりリンパ節に入り込むと発症するわけデスクリ◯ゾン!」
「要は先生のように道を外れた鼻摘まみ者でアウトローの菌が原因なんですね」
セレネースが横目で時計の針を確認しながら静かに補足する。
「そんなに除け者にされてないよセレちゃん! 確かに学会費とか滞納してるけど!」
「やばいっスよ先生! でも面白いって言ったらちと不謹慎だけど面白い話っスね!」
「お前さんは存在自体が元々不謹慎だろうが!」
「……」
ポンと両手を叩くノービアにブレオが苛立つが、そんな呑気な二人をよそにジオールは何もコメントしなかった。しかし心中は無反応だったわけではなく、むしろ逆だった。
(そ、そうだったのか……道理で……)
彼は本多の説明を聞いて腑に落ちることが一つあった。幼少時より人より頭が回り注意深かったジオールは、周囲の人々にこの不思議な吹き出物が出現し、更にその中には自然治癒する者がいることに密かに気づいていた。それをインチキ商売のタネに使おうと思いついたのは長じてからだったが、長年病気自体のメカニズムは全く知らなかった。彼にとっては別にそれでもなんの支障もなかったが、どうして生じるのだろうかと頭の片隅に引っかかっていた。だが、今、初夏の朝靄が太陽の光に曝されて晴れるように、頭の中がきわめてすっきりしたのだ。
(例えばあの男……スオードとかいったか……)
ジオールは今日の日中に神殿に来て固く抱き合った道具屋の男性を思い起こした。




