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カルテ373 ライドラースの庭で(後編) その43

「先生、その行為は非常に不愉快かつ不潔なので即お止めください。それとも私がかわりに叩いてさしあげましょうか?」


 あたかも死刑宣告のように発言するセレネースの右手には、なぜか木製のハンマーが握られていた。医療廃棄物のゴミ箱の蓋を叩いて閉めるためのものだが、愛用の武器のように静かな殺気を放っている。


「止めるからそれどっかやってよセレちゃん! そんな鈍器喰らった日にゃ頭蓋骨陥没しちゃうよ!」


「陥没乳頭なら自分も好きっスけどねー」


「いいかげんにしろ貴様ら! ちょっとは人の話を聞けえええええええええ! グフォッ!」


 憤激に駆られ再び暴発するも、嘔吐後に散々大声を張り上げたせいか、ジオールは喉の痛みを覚えて無様にむせ込んだ。


「はいはい失礼しました大統領さん。どーぞ続きを」


「言われんでも言うわ! とにかくかように我が神殿の水の法力は素晴らしく、かつ比類ないもので、飲んで患部に塗るだけで、見るも悍ましい悪魔の仕業の腫れ物を消滅させるのだ。よって通常の飲み水などとは全く違い、貴様がほざく多飲の害などあるはずがないわ!」


 なんとか声と体勢を立て直し、ありったけの威厳をかき集めて、彼は持論を説き続けた。もっとも心は千々に乱れてはいたが。


「ご高説よーく承りました。ですがその聖水はどんな病にも効くんですか? 例えばそこののび太さんに伺ったところによると、今日ナックルとかいう大男が息子の疾患が聖水を飲んでも治らなかったってクレームつけに怒鳴り込んできたんでしょう?」


「うっ」


 痛いところを突かれてジオールの呼吸が一瞬止まりかけた。だが寸前で持ちこたえると、本多に眼差しを据えて反撃の狼煙を上げた。


「あれはよくわからない変な咳が何日も続く息子がいるとかいって母親が無理矢理聖水をくれと迫ってきたから仕方なくやっただけだ! 聖なる池の水のご利益は、全ての病や症状に効果があるわけではなく、特定のものにしか効かないのは確かだ。だが、それは聖水の価値をおとしめるものでは決してない! 神は試されておられるのだ! 心の底から真に神を敬い、そして神が治す価値があると認められた者だけがその恩恵に浴することが出来るのだ。貴様ごとき不敬のやからには縁遠い話よ!」


「さすが神さんの代理人ってとこですがね。でもそんなもん僕に言わせりゃ神の力でも奇跡でも何でもないですよー。ちゃーんと科学的に説明できますって」


 本多にとっては全て想定内の様子で、ツルッと自分で自分の頭を撫で回した。

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