カルテ370 ライドラースの庭で(後編) その40
「ああっ、あれだ! でっかいビドロ板が池にはまっているんっスね! 神殿の正殿の天窓みたいに!」
「うるせえぞバカ! 深夜にこんなところで大声出すな!」
まるで脳天から出たのかと思うほど甲高い声を間近で聞いて、ブレオは思わず耳を塞ぎたくなったが、本多が右手の親指と人差し指とで丸を形作るのを目撃し、それが答えであると知って仰天した。
「そ、そうなのか!? でも、まあ、言われてみると……」
こんなチャラチャラしたやつがよくぞ自分で正解にたどり着いたもんだと、ブレオは不覚にも感心してしまった。
「まず間違いなくそこの黒子ダインさんのおっしゃる通りでしょうね。しかしこりゃすごい! こっちの世界でもこんな代物を思いつく御仁がい存在したなんて、驚き桃の木山椒魚、ブリキにタヌキにケンタッキーですよ!」
本多ですら興奮して池に身を乗り出し、危うく再び転落しかけてまたもや野郎三人のむさ苦しいドタバタ騒ぎが巻き起こったが、そろそろウザくなってきたのでブレオは脳内でカットした。
「……以上が聖なる池とやらの正体です。おそらくあのガラス……じゃなかったビドロ板の下にある空間にはどこぞに隠し扉が設けられ、神殿の内部へと通じているんでしょう。儀式を演じる人はそこから池の底に入り、さも息をずっと我慢して沈んでいるかのように振る舞い、観客がはけた頃に上部の人に合図かなんかを送ってもらって、また素知らぬ顔で地下通路を歩いて神殿内へと戻ったんでしょうね。あまり人に池の周囲に近寄らせなかったり、樹木を植えなかったのも秘密が露見するのを恐れてのことでしょう」
本多はそこで一息つくと、舐めるような視線で一同を見つめた。
「ではここで僕からの質問タイムです。この池を造るよう命じられたのは一体何処のどなたですか?」
「……俺だ」
いつの間にか立位から座位に戻りベッドの縁に腰かけていたジオールが、力なく答える。その疲れ切った横顔には覇気がなく、さっきまでの大魔神もかくやというほどの人間と同一人物とはとても見えないくらいだった。
「やはりそうでしたか……いやー、よくぞこんな大掛かりなからくりを考え付きましたねー。工事の時に周囲にバレなかったんですか?」
傷心状態のジオールとは対照的にノリノリの本多は、容赦なく質問を繰り出してきた。




