カルテ365 ライドラースの庭で(後編) その35
「貴様の言い分はよっくわかった。確かに普通の水を飲み過ぎたのならばそういったこともあるいは起こり得るかもしれん。しかし俺が摂取したのはここライドラース神殿の聖なる池の水だ。どんな病でもたちどころに治す力を持つ奇跡の聖水だ! だから貴様の妄言なんぞ露ほども当てはまらんわ! 詐欺師の戯言よ! 俺は単に疲労でちょっと倒れただけだ! この通り元気そのものだ! まったく、余計な真似をしおってからに!」
今やジオールは掛布をはねのけ半身どころか全身を起こして診察室のベッドの上に仁王立ちになり、天井近くから本多のキンカン頭をはっしと見据えていた。
「あ、危ないですよ、ジオール様!」
軋むベッドに青ざめたブレオが側に行こうとするも本多やノービアが邪魔で近寄れず、足踏みする羽目となった。
「あー、例の聖なるお池の水ね、先ほどちらっと見せて頂いたアレですね、ハイハイ。あんなもんじゃ効かないと思いますけどね……」
対する本多は慌てず騒がず、屹立する神官長に向かって飄々と煽るかのように話しかける。
「何、聖なる池を見ただと!? 何故貴様ごときが見る必要がある!? 効かないとはどういう訳だ!?」
「何で見たかって、そりゃー単なる好奇心からですよ。人が中に長時間いても窒息死しない水なんてものが本当にあるのなら、LCLもびっくりでセカンドインパクト並みの衝撃があるよカヲル君!」
「言ってる意味がわからないっスよホンダ先生!」
「先生、オタク用語はほどほどにしないとただでさえよくわからないのに皆さんついていけませんよ」
「うう、すいません、セレちゃん……」
心臓にレイピアを突き刺すような容赦のない突っ込みを受け、絶好調だった本多がみるみるうちに青菜に塩を振ったように萎びてしょげ返った。
「勝手に落ち込んでないでとっとと答えろ貴様!」
赫怒のあまり喉が張り裂けんばかりの音量を発しながら、ジオールが指先を突き付けたため、点滴の管が伸びて今にも引きちぎれそうだった。
「ハイハイ、でも黙って勝手に覗いたわけじゃないですけどねー。ちゃーんとそこにいるブリオさんだったかの許可を頂いて……」
「ブリオ貴様!」
「ひいいいいいいっ!」
条件反射で名前を間違えられたことにも気づかずブレオが硬直し、直立不動と化す。




