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カルテ359 ライドラースの庭で(後編) その29

 深夜に人工池の周囲でギャアギャアと騒ぐいい大人三人の姿は傍から見れば誠に見苦しく、仮にこの場に氷の受付嬢セレネースがいたら全員まとめて池に突き落とされているだろうと思われるほどだった。


「で、何かわかったんスか、ホンダ先生? 残念ながら俺様全くわからないっスよ」


 真っ先に落ち着きを取り戻した黒装束が、闇夜のカラスのごとく何処にいて何処から声を発しているのかわからないが、本多に問いかけた。


「ええ、お蔭様で大体見当は付きましたよ。こいつの正体はおそらく『スイミング・プール』ですね」


 本多は足を崩して服の乱れを整えながら、にんまりと微笑んだ。


「『スイミング・プール』っスか?」


「何なんだそれは?」


 いとも簡単に真相を見抜いたと豪語する本多に対する驚きよりも、聞きなれぬ単語に対する戸惑いが先立ち、聴衆二名は同時に首を捻った。


「まあ、直訳すれば『泳ぐプール』って意味ですが……あっ、ちなみにプールってのはこういう人工池のことでして、僕の世界には温かいのやら流れるのやら泡立つのやら各種ありましてね、プールサイドに水着姿の美女たちがキャッキャウフフしている南国リゾートに是非行ってみたいもんですがね……」


「だからどうしたってんだよ!?」


「言ってる意味がわからないっスよ、ホンダ先生! てかさっきから俺様こればっかりっスよ!」


 本多の妄言のせいでブレオが更に激怒する側で、ノービアが天に向かって情けない金切声をあげる。


「うーん、困ったな。お二人にどう説明したもんか……」


 本多は右手の指をL字にして顎に当てる。彼の地面を眺める瞳が闇間も射抜く知性の光を帯びる。


「そもそもこの池の周囲にだけ木が生えてないってのは、おかしいと思いませんか?」


「いや、別におかしくはないが……」


「木があったら池が見えにくいだろうし、こんなもんじゃないっスか?」


 本多のよくわからない唐突な質問に戸惑いながらも、二人は律儀に返答した。確かにプールの周りは滑りそうなほど磨かれた石畳で覆われ、庭の中でも異彩を放っているが、それについてはブレオも深く考えたことなど一度もなかった。

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