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カルテ348 ライドラースの庭で(後編) その18

 しかし現在生きた噴水さながらのジオールはそれどころではなく、次々と体内からあふれ出す汚物のため、まともに息も出来ないくらいだった。


「うげぼおっ! は、早く誰か呼んで来……いぐああああっ!」


 泳ぎながら息継ぎをするように嘔吐と嘔吐の合間になんとか声を振り絞り、ジオールは苦し気にブレオに語りかけるも、当の相手はふらつきながら頭を押さえて立ち上がる最中で、ちゃんと意思が伝わったかどうか、はなはだ怪しかった。


「うがあああああーっ!」


 ジオールのテカテカの頭皮の下の頭蓋は万力で締め上げられたようにギリギリと痛み、それと同時に全身からほとばしる脂汗が厳かな神官衣を雑巾のごとくしとどに濡らしている。普段の威厳はもはや影も形もなく、大神官は醜いヒキガエルのように上半身をテーブルに突っ伏したまま、ゼイゼイと荒い息を吐いた。


「く……くそ、何故俺がこんな目に………ぐがっ!」


 遂に限界が訪れる。気力を使い果たしたジオールはクルッと白目をむくと意識を失った。


「あいたたた……足音が出ないだけじゃなくってもっとすべらない靴を履いてくりゃよかった……ってジオール様!?」


 椅子を掴んでようやく体勢を立て直したブレオは、泡を吹いて気絶しているジオールに気づくと矢も楯もたまらずゲロの海を踏み越えて彼に近寄り揺さぶった。だがトドのような巨体は揺れ動くばかりで一向に目を覚まそうとする気配がない。


「やれやれ、どうしたもんか……それにしてもこいつ、やたら重いな……まったく普段から良い物ばっか食いやがって、ちったあ痩せろよこのデブが……って、誰も聞いてないよな?」


 ついつい本音が口から漏れ出すのでブレオは一旦唇を引き結ぶと、眠れるデブの身体を別の場所に移すため、どうにか引きずろうと試みた。しかしジオールをやっと床に臥床させたのは良いとして、一人の力ではいかんともし難く、動きは牛の歩みのように遅々として進まなかった。床の汚物に足を取られそうにもなるし、悪臭も凄まじく、このままだと食堂から抜け出すだけで力尽きそうなほどだった。


「お願いだ、誰でもいいから助けてくれーっ!」


 遂に音を上げたブレオが恥も外聞もなく絶叫すると、急に背後の空気が揺らめく気配を感じ、彼は思わず振り返った。

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