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カルテ347 ライドラースの庭で(後編) その17

(しかし今夜はやけに頭痛がひどいな……しかも段々気分が悪くなってきたぞ。さすがにもうそろそろお開きにした方がいいかな? だがこのチーズの味の美味さは後を引くが……)


 もう何切れ目かわからないしょっぱいチーズのスライスを右手でつまみながら、ジオールは汗ばんだ額に左手を当て、ぼんやりと考えた。眠気と頭痛のためか思考が徐々にまとまらなくなり、過去の記憶と混ざり合って白昼夢の中のように混沌としてくる。


 元から酒樽のようだった腹部は聖なる泉の水の大量注入のせいかさらに膨れ上がり、今や呼吸をするだけでタプンタプンと波打っている。息苦しさを覚えて、彼は競走馬のように荒い息を一つ吐いた。


「ふう、ちょっと疲れがたまっていたか? ところでこのチーズもう少し持ってきてくれんか?」


「い、いえ、それがどうやら誰かがこっそり食べてしまったらしく、だいぶ量が減っていて後少ししか残っていないんです……」


「何、そんな不届き者が神殿内にいるのか!? もっと見回りを強化せんといかんな……」


「あの、ジオール様、重ね重ね差し出がましいとは思いますが、明日の朝も早いんですから、もうお休みになられた方がいいかと……」


「ええい、うるさいわ! 今まさに部屋に戻ろうとしていたところだ。余計な口をきくな!」


 まるで親に説教された駄々っ子のようにブレオはテーブルをドンと叩くと濁った瞳でブレオを睨み据えた。度重なる失態にブレオは、「ひゃひっ」と意味不明な返事をして直立した。


「言われずともわかっておるわ! よいしょっと……ん?」


 重くたるんだ身体を椅子から持ち上げようとしたひょうしに、ジオールの胃を熱い塊のようなものが逆流し、喉元目がけて勢いよく駆け上がっていったため、彼の顔面は一気に蒼白と化した。


「うろげえええええええええーっ!」


 まるで風呂桶の中身をぶちまけたごとき量の胃の内容物が、彼のたらこ唇から止めどもなく流れ出し、磨かれた食堂の床を黄色く染める。後から後から増え続ける吐しゃ物のせいで周囲はたちどころに小型の池のようになり、すえた臭いが深夜の空気を汚した。


「ジジジジオール様、だだだ大丈夫ですか!? だから言わんこっちゃない! ……ってうわっ!」


 突然の惨劇に動揺したブレオは慌てふためき駆け寄ろうとするも、きらめくゲロの大海に足を取られ、無様にすっ転んでしまった。

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