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カルテ346 ライドラースの庭で(後編) その16

 ジオール・カデックスはグルファスト王国の僻地に存在するとある村の貧農の家に生まれた。生活は非常に貧しくその日暮らしが精一杯で、幼い妹と一緒にいつも空きっ腹を抱えていた。母親は妹を産んだ時に亡くなり、乳を貰うのにも苦労した。そんな極貧の彼だったが幼少期から人よりも賢く行動的で、絶えず周囲の物事を仔細に観察していた。そしてジオール少年が出した唯一の結論は、とっととこの地獄以下の環境から抜け出し、地位と富をその手に握ることであった。


(このまま農夫の跡取りなんかになり、奴隷のようにこき使われて虫ケラのようなつまらない一生なぞ送りたくない。自分の取るべき道はただ一つ、王都へ行って出世することだ!)


 そう決心した彼は、ある晩家中の有り金と食料をかき集めると、夜逃げするように家を抜け出し、一人ドグマチールへ向けて旅立った。苦難の末に王都にたどり着いた少年は、様々な店で下働きとして働いた。時には食料品店の小間使いとして、時には建築現場の荷物運びとして、また時にはビドロ工房の掃除人として……


 しかしこのままでは到底目指す頂点にまでは到達出来ないと悟った彼は、慈悲深いとの噂のライドラース神殿の門を叩いて必死に頼み込み、今目の前にいるブレオと同様に最下層の使用人として雇われるようになったのである。


 それ以降の彼の働きぶりは目覚ましく、体力の続く限り働き続け、かつ知恵の限りを絞って工夫に工夫を重ねて高位の聖職者たちをも唸らせた。当時の神官長のお気に入りとなった彼は血の滲むような努力の結果読み書きをマスターして神官長の秘書的な存在となり、小銭も貯めて遂には神官の末席に着くまでとなった。神官位を取るには神官長に認められる必要があったが、裏では金銭も必要なのである。


 勢いに乗ったジオールは勉学や修行を重ねて出世の階段を駆け上がった。ライドラース神の治療後の諸術を学び、更なる改良点を発見し、考案し、認められた。外面の良い彼は誰からも好かれ、その出自にも関わらず蔑まれることもなく、人脈も着々と築き上げ、ハーボニーのような腹心の部下も手に入れた。こうして恐れ多くもライドラース神の声を聞くまでに至った彼は、当代の神官長が高齢のため亡くなった後、満場一致で次の神官長に選ばれたのであった。


 今や神殿内に彼に逆らう者など一人も……変な黒装束は除いて一人も存在しない。全ては彼の思うがままである。確かに神殿の外では白亜の建物なんぞをありがたがるやからもいるが、ライドラース神の威光の前では塵芥も同様である。まさに向かうところ敵無しであった。

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