カルテ341 ライドラースの庭で(後編) その11
二人の男が抱き合っていた。荘厳な雰囲気に包まれた神殿の前室で、神官長ジオールと道具屋のスオードが。
「そ、そんな神官長御自ら、もったいない……」
あまりの出来事に全身を震わせるスオードの両眼にも涙の粒が宿る。まるで感動の再会を果たした家族のように抱擁を交わしていた二人だったが、ようやくジオールの手が解かれた。
「誠にすいません、感極まった挙句につい取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」
「いえいえ、滅相もありません! どうかお顔を上げてください!」
謝罪を述べ、頭を下げる神官長に対してスオードが慌てて制止する。
(とんだ茶番劇だな……)
そんな二人のやり取りを見つめる副神官長ハーボニーの瞳の色は、どんどん冷めたものになっていった。それでも自分の役割を心得ているため、以下の台詞を棒読みした。
「神官長様、そろそろお話の続きをお願いいたします」
「おお、そうであったな。他の皆様もおられることだし……もう顔を上げても良いでしょうか、スオード殿?」
「も、もちろんですとも!」
改めて許可を得てから、ジオールは芝居掛かった仕草でおもむろに身体を起こし、神殿の柱同様に背筋を伸ばした。彼の周囲から発散する威厳が一段と強くなり、他を圧倒する。
「さて、たった今スオード殿が勇気を振り絞って披露してくださったように、ここにいる皆様にも同じ腫れ物が首にあるのではないかと思いますが、どうでしょうか? 先ほども申し上げた通り、包み隠さずに打ち明けてください。大丈夫です、絶対秘密は外に漏らしません!」
突然生じた山嵐に吹かれる枯葉のごとく、周囲のざわめきが急激に高まったが、どうやらフード集団の思いは一つだったようで、皆示し合わせたように無言のまま、一斉にフードを捲り上げた。
「おお……やはりそうでしたか」
そこにいる老若男女全ての頸部に、スオード同様の赤黒い腫瘤がまるで岩にへばりついた醜い軟体生物のごとく皮膚を占拠していたのだ。
「さすが並ぶ者なき大神官様! 全ておわかりだったのですね!」
「噂通りの神眼です! ここに来て本当に良かった!」
「ジオール様、どうか病魔に侵されたこの哀れな人間をお助けください!」
口々に叫ぶ異形の形相の人々を、ジオールはあくまで慈顔のまま、見つめていた。




