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カルテ340 ライドラースの庭で(後編) その10

 小屋の中での戦闘は続いていた。猛攻をかけるリックルの手指が黒装束をかすめそうになることは何度もあったが、その都度、まるで迫り来る虫取り網から華麗に逃げる蝶のようにノービアがひらりと飛び退くため、状況はさして変わりなかった。


「ハァッハァッハァッ……くそ、貴様得意なのは身軽さだけか? さっきから一向に反撃してこないが、腕の方はからっきしか?」


肩で荒く息をしながら、リックルが苦し紛れに憎まれ口を叩く。


「いやー、別に反撃してもいいんスけど、それだと一瞬で片がついちゃうから、俺様的には面白くないんスよねー。ファックルの旦那もそんな惨めな負け方なんかした日にゃあ、心がバキボキに折れて恥ずかしくって表も歩けなくなっちゃうだろうし、諦めがつくまでやらせてあげてるこっちの気持ちもわかってちょうだいよー」


「こ………こんのゲスの極みのドブ以下のクソ野郎がああああああああっ! 俺はファックルじゃなくてリックルだ!」


 あまりにも人を人とも思わぬ高みからの発言に、リックルの額の血管がはち切れんばかりに太さを増した。怒髪天をついた大男は、もはや左腕のみならず両腕を用いて、必殺の鎖骨打ちを矢のような速さで次々と浴びせ掛けるも、ノービアはひょいひょいとそよ風のように受け流し、今にも口笛でも吹き出さんばかりだった。


「やれやれ、もうちょっと頭を使ってくださいよ、セックルの旦那。なーんの捻りもないじゃないっスか」


「リックルだゆーとろーが! だが、本当に俺が何も考えていないと思うか?」


 激しい攻撃のさなかにも関わらず、名前を間違えられた大男の口の端がわずかに上がる。それに気づいてふてぶてしさ爆発の黒づくめも、「ははーん」と頷いた。よく見ると、リックルはその巨体を有効的に利用して、ノービアをじりじりと部屋の片隅にまで追い詰めていたのだ。


「どうだ焦げカス野郎、これで貴様が豆粒くらいに小さくでもならない限り逃げ場はないぞ! 降参するなら今のうちだ!」


「ほほう、少しは考えることが出来たようっスねー、ワッフルの旦那。もっと早くそう出来ていれば、あんな詐欺師に家族が引っかからなかったのに。こう見えても俺様は旦那のことをとっても気の毒に思っているっスよ」


「言ってろ! とにかくこれで終わりだ!」


 もうもうと湯気が立ち上るほど汗を流しながら、リックルがガシッとノービアの細い身体を抱きしめる。


 そして……決着は一瞬でついた。

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