カルテ337 ライドラースの庭で(後編) その7
「私もです、偉大なる神官長様! 眼福の極みです! このまま両目が潰れても構いません!」
「さすが慈愛神に最も寵愛されたお方です! ライドラース神殿に栄光あれ!」
「ジオール様万歳! ライドラース様万歳!」
他の者も負けじとばかりに次々と声を上げる。賛美の言葉の花束が嵐となって舞飛ぶ中、ジオールは微笑みの仮面の下、舌を出してせせら笑った。
(もっと褒めろ、もっと称えろ、愚かな無知蒙昧のやからよ。お前ら下賤の者たちはそれくらいしか使い道がないからな。もっとも優秀な金づるになるにはそれくらい頭がおめでたくなければならんのだが……しかし揃いも揃って節穴のぼんくらよ)
「……」
側に毅然として立つハーボニーのみがそんなジオールの傲慢極まりない心の声を察知したのかかすかに眉をひそめたが、黙したままだった。
「皆様方のお気持ちは痛いほどよくわかりました。私からもライドラース様にその旨申し上げます」
頃合いを見計らってジオールは右手を掲げて良く通る声を発し、割れんばかりの聴衆の歓声を鎮めた。
「では本題に入らせていただきます。立ち入ったことで恐縮ですが、ここにお集まりの皆様方は、ある悩みを抱かれて当神殿の門を叩かれたのではないでしょうか?」
その瞬間、部屋の大気の動きがピタリと止まり、真の静寂が訪れた。明らかに先ほどの緊張感とは空気が異なる。
「皆様方、躊躇されるのはわかりますが、ここは慈愛神の聖なるお膝元です。何も恥ずかしいことや、やましいことなどありません。どうか包み隠さず神の代理人であるこの私めに打ち明けてください。幼子が母親にその日あった出来事を全て話すかのごとくに」
密かに自負しているが、ジオールの声音は穏やかに話せば、他者をリラックスさせる不思議な効果があった。もっともリックルのように怒りにとらわれている状態の者に対してはいささか難しかったが。
「さ、さすが神官長様! 素晴らしき慧眼ですね! わかりました、お目汚しで誠に申し訳ありませんが、恥を忍んでお見せします、我が醜い姿を!」
さっきいの一番に口火を切ったスオードという男が、感極まった様子で叫ぶと、目深く被ったフードを自ら勢いよく脱いだ。




