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カルテ336 ライドラースの庭で(後編) その6

 ライドラース神殿の前室と呼ばれる小部屋は今やすし詰め状態と化していた。中にいる十数名の人物は、皆先ほどハーボニー副神官長に名前を読み上げられ呼び出された者たちだった。


 奇妙なことに背丈や年齢の違う彼らには、皆共通点が一つだけあった。全員が頭からすっぽりフードを被り、顔がほとんど見えなかったのだ。


 隠者のごとき人の群れは、長椅子に腰かけながらひそひそと囁きあっていたが、突然の招集にも関わらず不思議と不安の色は薄く、「もしかして……」、「やはり噂通り……」などといった会話の端々から、ある種の淡い期待感が滲み出ていた。


「皆様、長い間お待たせして申し訳ございません。神官長ジオール様の御成りです」


 突如ノックもなしに神殿に繋がる扉が開いたかと思うと、箱を乗せた台車を押す使用人のブレオに先導され、副神官長のハーボニーが続き、一番最後に金糸銀糸で華麗な刺しゅうを施され、随所にきらびやかな宝石を散りばめた豪華な神官衣をまとった禿頭の男が入室してきた。ついさっきまで聖なる池の底にいた神官長その人である。


 その場を支配する緊張感が最高潮に達し、フードの一団は命じられてもいないのに一糸乱れず一斉に立ち上がると平伏した。


「慈愛神の敬虔なる信徒にして我が心の兄弟の皆様方、どうか顔をお上げください」


 何時身体を乾かしたのであろうか、全く水に濡れた様子の無いジオールは、居並ぶ面々に神のように厳かに、かつ長年の知己のように親し気に語り掛けると、精一杯の福々しい笑顔を浮かべた。彼は自分の発する目に見えない威光が部屋の隅々にまで行き渡ったのを肌で確認すると、話を続けた。


「神に選ばれし皆様方を聖なるこの一画にお呼びしたのは他でもありません。とある素晴らしいことについてです。ですがその前にお尋ねしたいことがあります」


 ここでジオールはわざとらしく咳を一つして言葉を切る。耐え切れず、人々のフードに隠された喉の奥から固唾を呑む音が狭い室内に反響した。


「皆様方は、先ほどの聖なる儀式をご覧になり、どのように思われましたか? 是非遠慮なく、忌憚なきご意見をお聞かせください」


「神官長様! 私はスオード・コンレイという者ですが、かつてないほどの感動を覚えました! ライドラース様の奇跡のお力をこの目で見ることが出来て! はるばる遠くから来た甲斐がありました! 一生の宝物です!」


 間髪入れずに最前列にいた焦げ茶色のフードの男が立ち上がると、手放しで絶賛した。

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