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カルテ327 牡牛の刑(前編) その20

「うぎゃーっ!セレちゃーん、なんでもいいからなんか押さえるティッシュ的な物ちょーだい!」


「とことんやかましい人ですね。血の気が抜けて静かになってくれた方がいいんですけど……」


「お……俺は助かったのか!?」


 ケルガーは、自分の周囲を周章狼狽しながらうるさく跳ね回る禿げ頭の首根っこを引っ掴むと、食い気味に尋ねた。雄牛の荒い鼻息が本多の顔面に吹き付けられ、彼は思わずかつて彼女とデートに出かけて臭いと不評だった牧場を思い出した。


「グギギギギギっ! そんな人の首絞めるような無駄な元気があれば十分平気ですよ! た、助けてル〇―ン!」


「お、おお、悪かった」


 ケルガーは早くもチアノーゼが口唇に出かかって泡を噴き出した本多から急いで手をどかしたため、哀れタコ坊主はドシンと床に尻餅をついた。


「ん、そういえば……」


 ミノタウロスは、今しがた主治医を絞殺しようとしていた己の毛深い両手にじっと視線を注いだ。


 火傷の如く赤々としていた蕁麻疹は潮が引くように早くもだいぶ減っており、皮膚のかゆみもそれほど感じない。喉の腫れもすっかり治まっているようで、息苦しさもかなり改善している。やや声がかすれてはいるが、発声にもそれほど支障はなかった。


 どのくらい眠っていたのか定かではないが、思考も秋晴れの空のようにすっきりして、疲れも取れているように思う。ただ、穴兎族の子供の誘拐という任務の失敗と、夢見がトラウマ級の過去の再現で非常に悪かったせいか、残念ながら気分爽快とまではいかなかったが。


「凄いもんだな……あんたたちが俺を救ってくれたのか?」


 ケルガーは、ようやく青かった顔に生気が戻った本多と、その禿げ頭にペタンと絆創膏を貼り付ける赤毛の看護師に目線を移した。


「ええ、数時間前に青息吐息で我が本多医院に駆け込んでこられましたからね。見るからにアナフィラキシーショックで命の危機だったので速やかにお注射させていただきました。ちょいとお高いエピネフリンや気管支拡張薬のアミノフィリンなんかも使っちゃいましたよ。あー、また出費がかさむ……いえ、こっちの話です。お代はいただきませんから気にしなくて結構ですよ」


 本多は白衣を正すと急に経営者の顔つきになった。

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