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カルテ326 牡牛の刑(前編) その19

「エリザス・ローザグッドよ、お前を愛する気持ちはあの夜からなんら変わらないし、お前の自分の姉妹を想う心は痛いほどよくわかる。俺にも一応兄弟がいるのでな。しかし、それでもついていってやることは出来ない。それは、俺の、祖国に対する明確な裏切り行為になるからだ」


「……」


 エリザスは仮面の下で深いため息を吐くと、「男ってバカね」と彼に聞こえないようにこっそり呟いた。


「わかったわ、ケルガー。もうこれ以上勧誘しない。あなたにはあなたの道があるしね……たとえそれがどんなに荊棘の道だとしても」


 そう言い残すと、エリザスは舞い散る粉雪の中、スタスタと南の方角へと歩き始めた。まるで散歩にでも出かけるように、軽やかに。


「すまん、エリザス! この償いはいつか必ずする!」


 ミノタウロスは、思わず大柄な身体を地面に投げ出し土下座したので、辺りの雪がわっとばかりに舞い上がった。


「いいっていいって、さっきはケルベロスの毒唾攻撃から守ってくれたんだし」


 エリザスは後ろ手に手をひらひらと振る。その姿は失恋した後吹っ切れた女性そのものだった。


「でもお前だって石化の魔力で俺を助けてくれただろ? だからその件は貸し借り無しだ!」


「はいはい、じゃあ貸し一つね。さようなら、ケルガー・ラステット。あなたわりといい男だったわよ。んじゃねー」


 軽口を叩くエリザスの後姿は、徐々に激しさを増す雪すだれの向こうに隠れ、見えなくなった。


「エリザース!」


 喉を焼き尽くすほどの叫びと共に、ミノタウロスの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。



「エリザース!」


「どわわわわわ、びっくらこいた!」


 床で寝ていたケルガーが大声を上げて起き上がった拍子に、左腕に突き刺さっていた点滴の針がぶっ飛び、側にいた本多の禿げ頭目がけて急降下爆撃し、見事に直撃した。


「ギャースっ! 血血血血血血―っ!」


「ったく何やってるんですか、先生。変なところに傷つくると、隠すのが大変ですよ」


「わかったから抜いて抜いて抜いてー!」


「その程度自分でも抜けるでしょうに……やれやれ」


 傍らの冷静沈着なセレネースがブスッと翼状針を手際よく抜き取ると、当たりどころが悪かったのか、本多の頭から血がクジラの潮吹きのように勢いよく飛び出した。

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