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カルテ320 牡牛の刑(前編) その13

 紫色の噴水は異臭を放つシャワーとなり、そこら中に降り注いだ。今度こそ逃げ場はない。


「エリザス!」


 すかさず彼女を左手で引っ掴んだ猛牛は、右手と片足を使って側の瓦礫を空に巻き上げる。即席の傘は毒の雨を未然に防ぎ、漆黒の獣は歯ぎしりをして悔しがった。


「くそっ、一度ならず二度までも! この馬鹿力だけが取り柄の寝取り間男野郎が!」


「フフッ、まだまだ余裕綽々の様子だな、ケルガーよ。しかし戦闘能力の無さそうなその売女をかばって、どこまでこのアコニチウム・ポイズン・ドロールを避けられるかな?」


「……喉、乾いた」


 相変わらずそれぞれ好き勝手なことを喚き続ける黒い三本首の台詞の中に「寝取り間男野郎」といういささか不道徳な単語を聞きつけ、ケルガーはようやく魔獣が自分たちをこれほど深く憎む理由に思い当たった。


「ああ、そうか。あんた確かエリザスの婚約者で、俺が彼女と酒場で運命の出会いをしてアバンチュールを決めた次の日の朝結婚式を挙げる予定だったんだよなあ。いやあ、魔獣化の実験の衝撃ですっかり忘れちゃってたわ。確かに悪いことしたけど、でも俺たちをこの極北のアビスに首尾よく送り込んだんで、恨みはきっぱり晴れたはずだろ?」


「「「欠片も晴れとらんわ!」」」


 全く反省の色もなくいけしゃあしゃあと喋り倒すミノタウロスのふてぶてしさに業を煮やした元上司が激越し、三つ首とも全てが青筋を立てた。


「いいか! 耳クソをかっぽじってよく聞きやがれこの三下がああ! うごおおおお!」


「ハッハッハッ、興奮し過ぎて全然説明できてないぞ。ここはいざという時のための三本目に任せるとしよう」


「……元我が部下のケルガー・ラステットよ。我、ホーネル・マイロターグは、貴様と裏切り者のエリザスを死よりも苦しい目に合わせるため、我が権力並びに財力の全てを注ぎ込み、確かに魔獣創造の被験者とすることに成功した。しかし、その過程で我は様々な部署に裏から金を渡したため、そのことが明るみに出て法に触れ、遂にこのような憂き目に遭った次第だ。因みに我はいざという時のために知力を使うため、普段は理性よりも欲望の方に比重を置いている首である。以上」


「……ってことはあんたは自分の掘った墓穴に自らはまっちゃったってことか!? こりゃ傑作だ! ギャハハ!」


 粛々と話す三本目の首の話に噴き出したケルガーは、自分の膝を打って大笑いした。

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