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カルテ319 牡牛の刑(前編) その12

 器用に攻撃を避けるケルガーだったが、全てをかわし切れたわけではなかった。飛鳥の速さで襲い来る毒つぶての一つが頬をかすめた時、ジュッと皮膚の焦げる臭いがした。


「うおっ、あっぶねー! 牛皮じゃなかったら穴空いてたわ! てか本当に何なんだよお前!? いくら紳士な俺様でも我慢の限度ってもんがあるよ!」


「紳士なら山賊担ぎじゃなくて、お姫様抱っこぐらいしてくれてもいいんじゃない……?」


 麻袋みたいにミノタウロスの肩に二つ折りに乗っかっているエリザスが、恨めし気に呟いた。


「アホが、全く覚えてなさそうだな、自分の仕出かした大罪を!」


「ハッハッハッ、所詮バカにいくら言っても無駄だろう。そろそろ教えてやれ、三本目よ」


「……我は、ホーネル・マイロターグだ。ケルガー・ラステットならびにエリザス・ローザグッドよ」


 なんと、今までろくなことを喋らなかったケルベロスの三本目の首が、口元から紫色の涎を垂らしながらも、厳かに自分の名前を告げた。


「ホーネル・マイロターグだって? どっかで聞いたような気が……」


「ふああああああああっ!?」


 突如エリザスが素っ頓狂な声を上げたかと思うと、ケルガーの肩から飛び降りて魔犬の顔をマジマジと見つめた。


「おい、どうしたエリザス? お暇様抱っこぐらい後からいくらでもしてやるから、まだ乗っていろよ。危険だぞ」


「それどころじゃないわよケルガー! あんた自分の上司の名前も忘れちゃったの!? ほら、彼よ、彼!」


「自分の上司? はぁ……」


 鉄仮面越しに叱られたケルガーは、先ほどの火傷の痕を太い指で触りながら、人間時の記憶を呼び起こす。正直同僚や上司の名前なんぞ、好きな女性の名前に比べたら鼻くそほどにも覚えていなかったが……


「あ」


 だが、脳内を適当に検索していくうちに、ようやく真面目一辺倒で融通が利かない男の顔を思い出した。


「ああ、ホーネル副隊長か! 思い出したよ! あんた堅物で童貞臭いからから正直童貞副長としか頭に残ってなかったわ。いやー、すまんっス。でも、なんだってそんな哀れな姿なんかに……」


「「「貴様らのせいだああああああーっ!」」」


 それまでハァハァと荒く息を吐きながら押し黙っていた三つ首が一斉に雄叫びを上げ、火山の噴火のように毒液を盛大に天に噴き上げた。

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