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カルテ316 牡牛の刑(前編) その9

「しかしなんだってそんなけったいな物頭に被ってるんだ? せっかくの美貌が台無しだぜ。うちの団長もいつもそんな兜被っていたけど」


「ええっと、これはお肌を陽の光から守るための最新式の美容グッズで……」


「すげえ蒸れそうだけど、本当に美容に効果あるのかよ、それ……ん?」


 ケルガーとエリザスが廃墟と化した施設の上でコントを繰り広げているさなか、急に何か大きな鳥の羽ばたきのような音が降ってきたため、二人は会話を中断し、同時に空を見上げた。


「ば、バカな……ドラゴンだとぉ!? そんなもんまでこの施設は造ってたってのか!?」


「しかも二頭も……それに、あの顔は……」


 なんと、灰色一色に染まる天空を、翼を広げた巨大な二頭のドラゴンがトンビよろしく悠々と旋回し、地上を睥睨していた。一頭は鮮やかな青色で、大きな美しい女性の顔を持っており、もう一頭は月光のような銀色に輝き、同じく眉目秀麗な女性のかんばせを下に向けていたが、額から抜身の刀のごとく湾曲した角が飛び出している点が大きく異なっていた。


「間違いなくあれもまんまと脱出した俺たちのお仲間なんだろうな……しかしとっとと尻捲ってトンズラこけばいいのに、あんな所で何をグズグズしているんだ?」


「きっと餌となる人間を探しているのよ……でも……そんな……まさか……」


 教師のようにケルガーの疑問に律儀に答えるエリザスだったが、全身が震え、声がか細くなっていた。


「おい、どうしたんだ、エリザス? さっきからなんか元気ないぞ」


 元来こと女性に関しては敏感な元色男のミノタウロスが、鉄仮面の様子がおかしいことに気づいて駆け寄ろうとしたその時である。


「エレンタール姉さーん! エミレース姉さーん! 私よ! エリザス・ローザグッドよ!」


 突如、青菜に塩を振ったみたいになっていたエリザスが、鉄兜も吹き飛びそうな大声を張り上げて、大空を舞う魔物たちに呼びかけたため、ケルガーは慌てて大きな耳を両手で押さえる羽目になった。


「な、なんだってんだよ!? あのトカゲの親玉が姉さんだって!?」


 しかし二頭の竜は毛ほども反応する様子はなく、悠然と虚空に輪を描くのみだった。


「姉さーん! お願い! 正気に戻って!」


 呼び声は虚しく天に響くのみで、やがて食料となる獲物が見つからないことに対して諦めたのか、天空の覇者たちは円を解くと大きく羽ばたいて、南の方角へと飛び去って行った。

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