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カルテ313 牡牛の刑(前編) その6

「そうおっしゃるだろうと思ってエピネフリンの筋肉注射と酸素投与ポンプと各種点滴その他諸々をお持ちしました」


 神の使徒のごとく優秀極まる看護師が何時の間に用意したのか銀色に輝く医療カートに治療器具一式を満載し、彼の背後にスタンバっていた。


「おおう、エクセレント! しっかし海老根風林斎でよくエピネフリンのことだと分かりましたねー」


「さすがに付き合い長いですし、先生の無駄雑学講座のお蔭でなんとなく予想が付きました」


「無駄って言わないでよー! んじゃまー一発ブスっといっちゃいますかミノさん!はい、チクっとしますよー」


 のんきに喋りながらも本多は器用にミノタウロスの丸太のような左肩の筋肉に、ささっと消毒した後注射器を突き刺す。


「あ……穴ひらきだのアナフィラキシーだのエピネフリンだの何のことだ……」


 生まれ持った好奇心のせいか、ぜいぜいという呼吸の下からも、苦し気にケルガーは疑問を吐き出す。


「おおっとすいません! ちなみに忍法穴ひらきってのは、忍者が味方と敵に分かれてガンガン殺しあう忍法帖ってのばっかり書いてた山田風太郎って小説家さんの小説に出て来るエロい忍法でして、男の忍者が女性と二回アレをしちゃうと二回目で女性がアナフィラキシーショックで死亡するって恐るべき技でして、だから名前が『穴ひらき』なんですねー。


 んで、アナフィラキシーショックっていうのは、とある物質に身体が触れたり、吸収したりした後、再びその物質に接触すると、全身がそれに反応して凄まじい症状が現れることです。これは免疫っていう身体を守るための防衛システムが過剰に応答してしまう、いわゆるアレルギー反応の一種と言われます。これが生じると全身に蕁麻疹が出たり、喉頭粘膜が腫れ上がって喘鳴や呼吸困難が起こり、更に血圧低下や嘔吐、意識低下が進行し、ひどい時はわずか数分で死に至ることもあります。でも、それを救ってくれるのがこのエピネフリンってわけですねー。はい、注射終わりましたよー」


「な……なんだかよくわからんが、お、俺は助かるのか……?」


 ケルガーは饒舌過ぎる医者の説明に圧倒されながらも、僅かな希望の光をその言葉に感じ、すがるような目で禿げ頭を見つめた。

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