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カルテ293 眠れる海魔の島(後編) その22

「ぶはーっ! ……しかしひどいな」


「なにこれ、すっごく汚いじゃないの。何も見えやしないわ」


 筏に別れを告げてから数分後、ゼローダとイレッサの二人は同時に水面に顔を出すと、向き合って眉をひそめた。実際イレッサの指摘する通り、海水は津波の影響で汚泥が流れ込んだせいか茶色く濁っており、先ほどまでとは打って変わって非常に視界が悪くなっていた。


「弱ったな。これじゃゲンボイヤがどこにいるか、全くわからないぞ」


「仕方ないじゃない、こうなりゃ奴が姿を現すまで根競べよ。まあ、見てらっしゃい。百戦錬磨のあたいの色香に引き寄せられて、その内我慢できずに襲ってくるわよ、フフっ」


「そのわけのわからん自信はどこから出て来るのか非常に不思議なのだが……ん?」


 立ち泳ぎしながら冷静に突っ込んでいたゼローダは、ふと自分の足元にポコポコと何かが当たる感触に気づき、下を向いた。


「泡……?」


「……みたいね。なんだかわからないけど、面白いわね、これ」


 いつの間にか二人は深海から上って来る無数の泡に取り囲まれていた。まるで沸騰した鍋のように周囲は勢いよく泡立ち、その数と大きさは加速度的に増していった。


「おい、なんだか泡が巨大化してないか? それにやけに粘着力があるぞ。これは、まさか……」


「まずいわ! これって攻撃されてるわけじゃないの! あたいのバカバカも一つおバカ! 逃げるわよ! 早く!」


 遅まきながら真相にたどり着いたイレッサが悲鳴さながら叫び声を上げるも時すでに遅く、立ち上る泡の結合した柱によって二人の足元がすっぽりと抜け、まるで海の中に突如開いた落とし穴にはまった状態となった。


「うおおおおおおおおおーっ!」


「きゃああああああああーっ!」


 割れた海底を覗き見た二人は同時に絶叫した。そこにはあのゲンボイヤがぬらぬら赤くぬめった口を丸く大きく開いて、次々と泡を吐きだしている姿があった。この魔物は泡による空気の柱を出現させることによって、獲物の逃げ場を奪い、そのまま自分の口中へ送り込む巧みな技を使う狩人だった、というわけだ。


 奈落の底へと落下しながら、ゼローダとイレッサは海魔がニヤリと笑うのを確かに目撃した。

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