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カルテ153 閑話休題 その48 運命神のお告げ所(前編) その6

「おわっ、お前たち、何者だ!?」


 石造りの灰色の宿泊所の、鍵のかかっていない木のドアをノックもせずにルセフィが開けると、子供をあやしていた、見覚えのあるウサギ頭の獣人が、びっくりしたようにこちらを振り返った。部屋は一間のみで、ドアと窓のある壁以外の三方の壁にはそれぞれ二段ベッドが一台ずつ設置されており、室内の真ん中には木のテーブルと椅子が六つ置いてあった。どうやら六人ぐらいまでは泊まれる造りらしい。


「失礼いたしました。私はルセフィ・エバミールと申しまして、この一行を率いている者です。

お告げ所の巫女のソフィアさんに、ここに泊まるよう言われたんですが……あれっ?」


 一行を代表して挨拶したルセフィが、穴兎族の男を見て、目を丸くする。


「ん、そういえばあんたたちはどこかで見たような……って、さっきあの詐欺ババアが指差していた、人間たちじゃないか!」


 相手の方も、驚きのあまり、キャッキャッとはしゃぐ子供の獣人を持ち上げたままの格好で固まった。


「す、すごい偶然ですね……いや、これこそ運命ってやつかな?」


 背後でテレミンがごくりと喉を鳴らす。


「あなた、ちゃんとご挨拶しないと……すいませんね、皆さん。こんな格好でお許しください。ちょっと身体が悪いものでして……私は穴兎族のリルピピリンと申します。以後お見知りおきを」


 傍らの二段ベッドの下の段から、か細い女性の声がするので一同が視線を落とすと、そこには一人のウサギ頭の女性がベッドに横たわっており、徐々に半身を起こしかけていた。


「ご、ごめんよ、それよりちゃんと寝ていてくれ。おいらの名前は誇り高き穴兎族の勇敢な戦士、アカルボース、こっちは息子のダイドロネルだ。ちなみにリルピピリンはおいらの最愛の奥様だ。よろしくな!」


 妻に諭されてようやくアカルボースが非礼を詫び、一同に挨拶を返した。


「初めまして、僕はテレミン・バルトレックスといいます。穴兎族のことを教えてください!」


「気が早すぎますよ、テレミンさん。ちなみに私はダオニールと申します」


「フィズリン・イナビルです。どうもよろしく」


 ルセフィ一行もそれをきっかけに順次自己紹介していき、ようやく張り詰めた空気が緩和されていった。



「しかしさっきは珍しい生き物を目にしたな。あれは多分吸血鬼の中でももっとも危険な種族、バンパイア・ロードか……?」


 トイレ前のベンチに腰を降ろした毛皮のコートを着込んだ大男が、独り言をつぶやいた。周囲には人影はなく、ひっそりと静まり返り、深山の幽冥の気が満ち満ちているのみだ。インヴェガ帝国人の男は、傍らに置いた大きな袋に片手を置きながら、空を見上げた。高山につきもののガスは今宵は一欠けらも見られず、振るような星空が彼の頭上に広がっている。


「満月の夜こそ彼らは最強を極めるというが、今夜はまだ大丈夫か……何の用事があってこの地に来たかは知らんが、あまり関わり合いにはなりたくないな」


 男は考えをまとめながら、コートのポケットをまさぐった。ごつい指先がカサカサしたものに触れる。常に持ち歩いている数々の護符だ。過酷な任務の遂行のために必要なものが多く、何度も彼を助けてくれた。


「ま、とりあえずぶつかり合うことはなかろう……さてと」


 男は蒼い双眸を細め、フッと笑みを漏らすと、ゆっくりと一体化していたベンチから立ち上がった。

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