第1章 6 2020年1月1日
サンクスギビングホリデーが終わったアメリカはクリスマスシーズンに入っていた。各地で派手な祝祭を上げている中、一際目を引く高いビルの最上階にチャールズは薄暗いオフィスの中で男と話をしていた。
「男はどんな結末を選んだ?」
「決して最良な選択とは言えないでしょう。ですが本人はそれを望んでいました。」
「そうか。それなら良い。」
すると男は心が和んだのかそれまで強張っていた顔から緊張が解れ口元が少しだけ緩んだ。黒縁メガネを掛け髪は坊主に近くショートで綺麗に整髪されており真っ黒なスーツを身にまとっている。デスクライトのみで照らしているこの空間をより一層暗くしているようだった。
「会われないのですか?」
「いや、会うことは一生ないだろう。」
「そうですか。残念です。」
チャールズはそう言うと体を反転させて扉の方へと歩いて行った。振り返ると男は私に背を向けて最上階の窓から見えるカリフォルニアの景色を眺めていた。その背中には悲しさやむなしさが感じ取れた。街はクリスマスシーズン。イルミネーションが輝きだしており立ち並ぶ店はどこか温かみを感じる映画のセットのような街並みだ。屋外に設けられたスケート場にはカップル達が手を取り合っている。
「今日はクリスマスですね。」
「・・そうだな。」
男は私に背を向けたまま答えた・
「ご予定はないのですか?」
「予定あったらお前と話なんてしてないだろう。」
「確かに、そうですね」
私は笑いながら答えた。これで用事は済んだのだが私は不思議と部屋を出ようとはしなかった。この沈黙この瞬間この空間がとてつもなく居心地が良かった。
「ひとつだけ聞いていいか?」
男は窓に背を向けたまま私に問いかけてきた。
「なんでしょうか。」
「俺は良い父親だと思うか?」
「良い父親でなければあのようなことはなされないと思います。現にあのお方は自分の生きる方法を見つけることが出来ました。」
私が答えると男はしばらく沈黙を続けた。10分ぐらいだろうか。だが、決して長いとは思わなかった。そして、男は振り返って私に答えた。
「ありがとう。・・・・・。」