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経歴変換スイッチ  作者: 藤本 慶典
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第1章 9 困惑

 部屋の電球が切れ、テレビの光だけで照らされた部屋の中は驚くほどの僕の気持ちを投射したかのようで居心地がよく感じた。おまけに両親は2人とも外出しており帰ってくるのは夜中の3時ごろだ日付をまたいだ今の時間は静けさで不気味なぐらいだ。まったく、どこで何をしているのやら、もしかしてよろしくやっているのか?だとしたら息子に感づかれないようにしてほしいものだ。俺は手にしている本を三度開いた。しかし、そこに書いてあることは変わらない。

「大島・・・莉・・乃・・・か」

 さんざん考え込んだが、全く理解できない。そして、意味が分からない。疑問点は5つある。あのホームレスは何者?この本に書かれている過去の所有者とはどういうこと?なぜ、ホームレスは俺にこの本を渡してきた?チャールズと大島莉乃の名前がどうして載っている?そして、なぜ、チャールズは緊急用の電話に出ない?

 俺は頭の中で、いくら思案して答えを出そうとしてもたどり着く答えは決まって

「意味が分からない。」

 この一言で終わってしまう。さっき、チャールズと会ったときにたしか経歴変換スイッチを使ったと言っていた。だからここに載っているのか。でも、そんなタイムリーな速さで本に載せるとは信じられない。だとしたら、チャールズは俺が使う前からこの装置を使っていた。そして、何より大島莉乃もこの装置を使っていたということなのか?チャールズが彼女に渡したのか?それとも別の誰かが?でも何のために?今日会った莉乃ちゃんが装置を使っていたのか?同時期に2つの経歴変換スイッチを使うことなんてできるのか?そうなると一体どうなるんだ?でも、莉乃ちゃんが装置を使っていたとは到底思えない。使っていたとするならばもっと動揺していてもおかしくはないからだ。現に俺がそうだったからだ。でもそんな様子は微塵も感じられなかった。さらに疑問なのがこの本の状態だ。

「もはや、ボロボロ。」

 とても年代物で使い古された感マックスの仕上がりだ。ここ4、5年で作られたものとは思えない。20年?いや、30年前?いやもっと前か?

「意味が分からない。」

 そして、この結論にたどり着いてしまう。せめて、チャールズと連絡が取れればいくつか、いやすべての疑問が解決するだろう。俺が考えている間もテレビの光は様々な画面を映しながら不規則に光っている。まるで、俺の整理や思考が追い付かない気持ちを表しているようだ。

「一か八か明日、莉乃ちゃんに直接聞いてみるか?」

 彼女がもし何かを知っているなら必ず何かしらの反応をするはずだ。いや、いきなり聞くのは早すぎる。少し探りを入れてみるか?たとえば、「俺、自分の経歴に自信がないんだよなぁ」とか「莉乃ちゃんは子供のころなりたかった将来に今慣れてる」とか、ストレートに「莉乃ちゃんは自分の経歴で変えたいところある」そか冗談交じりに聞いてみるか?彼女は一体、どんな反応を見せるだろうか。もしかしたら、俺の考えすぎて普通に返答してくるかもしれない。俺はそれを望んでいるが。最悪なパターンは「えっ!もしかして、逢沢さんもあの装置について・・・・」みたいな反応されたら俺がどう反応すればいいかわからなくなる。自分で自分を追い込むことになる。いや、やめておこう。もう少し様子を見ておこう。いくらなんでも行動に移るのが早すぎる。この本を受け取ったのもついさっきの話だ。少し時間をおこう。その間に何かわかるかもしれないし、チャールズとも連絡が取れるようになるかもしれない。

 プルルルルル・・・・・

 ふいに電話が鳴った。今回は全然驚かなかった。同じ魚でも深海で獲物を狙う魚のようにじっとしていた。きっと俺の脳中の驚きという領域に思考というここ何年も使っていなかった分野が侵食しているからだろう。おれはそっと電話を取り通話にした。内藤からだ。

「もしもし」

「うぃーす。悪いな、こんな遅くに。」

「どうした?」

「明日さ虹色クローバーのライブ映像がネットで生配信されるから俺の家で一緒に見ねーか?」

 虹色クローバーか。大島莉乃のいない虹色クローバーはもはや俺にはどうでもよかった。

「悪いな。明日は用事があるからいけないや。」

「おいおい、そんなわけねーだろ。お前、あれほど好きだったじゃないか。親友に嘘はいけねーぜ。」

 あれほど好きだった?大島莉乃がいない虹色クローバーを俺が好きだったのか?一体、誰を好きだったんだ?俺は試してみた。

「あー、ゆかたんはもう飽きたからな。」

「はっ?ゆかたん?お前何言ってんだ?お前の推しメンは渡辺みなみだろ。」

 なるほど、大島莉乃の経歴を変えたら彼女だけが変わっていると思っていたが彼女から何かしらの影響を受けていた人物も経歴とまではいかないが多少なりとも変わるのか。そうだよな、対象のアイドルとしても大島莉乃はこの世にはいないのだから。俺も違う誰かを好きになっているという風に変わっていたのか。

「あー、悪い。夜遅いから俺の思考回路マジ停止中だわ。」

 これは本当だ。嘘じゃない。

「バイトばっかでおかしくなっちまったんじゃねーか。絶対、そーに決まってる。だったら息抜きのために明日は午後4時に必ず俺の家来いよ。確か、お前そのためにバイトも休みにしていたろ?絶対来いよ!!」

 最後は半ば恐喝のような言い方で電話を切られた。なんだか、釈然としない気持ちになったが内藤との電話で少し気がまぎれた。今、いくら考えても答えは出てこない。俺は布団に潜り込み枕に顔を思いっきり押し付けた。昨日使った新品のシャンプーの匂いがほのかに鼻を刺激した。その時の俺にはアロマのような感覚に覚えてすごく安らいだ。そして、俺はいつしか深い眠りについた。




 ブーン、ブーン、ブーン、ブーン、ブーン、ブーン、ブーン、ブーン、ブーン、ブーン、

「留守番電話サービスです。ピーっという発信音のあとにメッセージを残してください。

 ピー・・・・・・・・・これは、これは、逢沢様、チャールズです。電話にでられないので留守電に残すことにします。たぶん、今の逢沢様はひどく困惑していると思われます。それもそうです。変な男から何かを言われたんですよね。その件について、お話がありますので折り返しのお電話をお願い致します。それでは・・・・」


ちょっと行き詰ってきた・・・・

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