狼少女の交換日記
「おにくたべたい」
「出だしがそれなのか。それでいいのか。」
「おにくたべたい」
「気にしないことにしよう。今日も基礎訓練ばかりだった。明日で五歳、そろそろ剣を握らせてほしい。ララもそう思わないか?」
「おにくたべたい」
「五歳の誕生日、父も母もいないが、屋敷の皆が祝ってくれた。プレゼントはどれも嬉しかったが、一番は師匠から貰った剣か。刃引きしてあったが鉄でできた剣…一層精進せねば。ところでララからは何もなかったんだが。」
「おにくたべたい」
「それしか書く事ないのか。」
「ない、おにくたべたい」
「いや、何かあるだろう。今日は何したとか、天気がどうとか。」
「オトさまとあそんだ てんき はれ おにくたべたい」
「来月にはララの誕生日があるな。なにか欲しい物はあるか?何か贈らせて欲しい。」
「おにくたべたい」
「来週は僕とララが初めて会った日だ。折角だから何か贈ろうかと思うんだが、何がいい?」
「おにくたべたい」
「明後日は市井では普段世話になっている男女が贈り物を互いに交換する日らしい。何がいいだろうか。高い肉などだろうか。」
「おにくたべたい」
「なにか僕は気に障るような事をしただろうか、ララに避けられているような気がするんだが。
考えてみたが心当たりがない。教えてもらえないだろうか。
「おにくたべたい」
「先日の件、ヒルデの言う事を気にする事はない。
確かに僕が彼女と結婚したら、僕のララと彼女の狼人達で結婚することになるけれど、あんな野蛮な奴らに君を委ねるようなことは決してしない。なので僕が彼女と結婚することなんてありえない。」
「おにくたべたい」
「明日は魔術テストだな。ララはちゃんと勉強しているだろうか。家庭教師の授業も一緒に受けてるし心配することはないか。」
「おにくたべたい」
「やっぱり狼人は魔術が苦手なんだな…。」
「僕らも来年には10歳。学園に入学になる。クラスは同じになるはずだから心配いらない」
「おにくたべたい」
「うん、わかってる。」
「最近スキンシップが激しすぎないだろうか。嬉しいんだけど人前では恥ずかしい。明日から学園だから向こうでは控えてくれると助かる。」
「おにくたべたい」
「友達ができた。ララはどうだろうか?ララは人見知りだから心配だ。学園でも話しているのを見ないし…。」
「早く目を覚ましてくれ。ララのいない屋敷は火が消えたようだ。」
「出入りの小間物商から髪飾りを買った。ララに良く似合うと思う。枕元に置いておくから、起きたら着けて欲しい。」
「今日は領民から献上さえた大蜥蜴の肉を食べた。見てくれはアレだが牛よりも好みだ。羨ましいか?いつまでも寝てるから食べ逃すんだ。」
「すまなかった、許して欲しい。ララは僕が川へ入ったのを怒ってるんだろう?だから起きてくれないんだろう?ララが助けてくれなかったら、滝から落ちていたのは僕だったろう。しかも悪い事したのにいつまでも謝らない。父さんは軽々しく謝罪なんてしてはいけないっていうけれど、やっぱりおかしい。
ごめん、言い訳だ。でもどうか機嫌を直して欲しい。笑って欲しいとは言わない。いつもの無表情でいい。僕のそばに居て欲しいんだ。」
「父さんと喧嘩した。初めてかもしれない。」
「昨日父さんが狼人の娘を連れてきた。ララよりちょっと背が高かったかな、年は僕らと同じらしい。ララの代わりって言ってた。ララの代わりなんていないのに。」
「今日も父さんが居る。三日も家に居るなんて今までなかったと思うけど。狼人の娘さんにはお引取り願った。可愛い子だったから引き取り手には困らないだろう。いや、もちろんララのほうが何倍も可愛い。波打つ蒼い髪は素敵だし、耳も尻尾もふかふかだもの。」
「昨日は来れなくてすまない。転んでそのまま意識を失うなんて鍛え方が足りないよね。でももう大丈夫。これからはララの部屋のソファーで寝るようにするから。食事も此処でとるからずっと一緒だよ。おまるは止められたのでトイレには出るけれど。」
「今日は母さんだという人が来た。うん、顔覚えてないんだ。それで王都で有名らしい司祭様を連れていた。凄い魔法が使えるという話だったけど嘘だと思う。だってララは目を覚ましてくれないんだもの。」
「そういえば家族3人揃うのはいつ以来だろうか。あれから父さんもずっといるし。仕事はいいんだろうか。宰相というのは実は暇なんだろうか。」
「なんかだんだんララの寝顔が見れるだけで幸せなんじゃないか、と思えてきた。」
「ごめん、昨日のは嘘。早く目覚めて欲しい。君の琥珀の瞳に僕を映して欲しい。」
「ララ、早く目覚めて、早く。」
「おにくたべたい」