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ガチャ8 やすらぎ亭の看板娘に教えて貰おう

 日が沈みかけ道端で露天を開いていた者達が店仕舞いをしていた。思ったよりも閑散としている大通りをリュウは進んでいく。しばらく歩いていると、ベッドの絵の下にやすらぎ亭と書かれている看板を掲げた店を見つけた。


(宿屋か。今日は色々ありすぎて疲れたな。早くジャケットとボトムを外して寝たいし、ここに入るか)


 宿屋の扉を開けて中へ入ると正面にカウンターが見える。扉を開けた時に鳴った鈴の音を聞いて恰幅のよい女将らしき女が奥から出てきた。


「いらっしゃい。宿泊かい?」


「ああ。1泊したい」


「1泊なら銅貨20枚だよ。朝夕の食事つきなら銅貨40枚だね」


「食事つきで頼むよ」


「じゃあ、ここに名前書いて」


 リュウは差し出された紙とペンを受け取り名前を記入して返した。

 

「……リュウだね。じゃあ、この合鍵を持って3階の奥の角の部屋に行きな。食事は1階の食堂で出すから時間になったらおいで。夕食は晩課の鐘の時。朝は朝課の鐘の時だよ。あんまり遅れたら処分しちまうから気をつけておくれよ」


「わかった。ところで晩課の鐘と朝課の鐘ってなんだ?」


「あんた、頭でも打ったのかい? 子供だって知ってる常識じゃないか」


「近くの森でいつのまにか倒れてたみたいでな。起きてから頭が痛くて名前以外の記憶が思い出せないんだよ。常識すらね」


 女将はリュウの言葉を聞くと申し訳なさそうに眉を寄せている。


「悪かったね。だけど、アタシはこう見えて忙しい。後で娘を部屋に行かせるから、必要なことは娘に聞いとくれ」


「助かるよ」


 リュウはカギを持って3階へ上がり、自分に割り振られた角部屋まで行き合鍵で錠を外してドアを開けた。

 ワンルームでベッド、テーブル、椅子以外の家具は無く、壁紙も白一色。窓からは街灯や家の照明が夜をささやかに彩っている。

 質素だがシンプル故に落ち着く雰囲気だった。


(……悪くない)


 王都の夜景を眺めているとドアを3回ノックする音が聞こえた。


「開いてるよ」


「失礼します。お母さんから頼まれて来たエリーです。リュウさんは記憶喪失らしいじゃないですか? わからないことはなんでも聞いてくださいねっ」


 大きな声でハキハキと話すエリー。肩まで伸びた栗色の髪と円らな瞳が特徴的な10代後半の美少女だった。


「エリー、早速で悪いけど晩課の鐘と朝課の鐘についておしえて貰えるか」


「はい。晩課の鐘は夕陽が完全に沈むとなる鐘ですね。朝課の鐘は朝陽が昇り始めたら鳴ります。

 他にも太陽が一番上に来たときに鳴る正午の鐘があります。リーデンブルグ王国ではどこの都市でも同じように鐘を鳴らしていますよ」


(なるほど。時計代わりに朝、昼、夜と3回鐘が鳴るのか。大雑把にだが、時間が把握できるようになったな)


「なるほどね。じゃあ、そろそろ食事ができそうなわけだ」


「はいっ。お父さんが作るご飯はとっても美味しいですよ!」


「それは楽しみだな。で、次の質問だが……」


「それはですね。……が……なんですよ」

 

 何度も尋ねるがエリーは嫌な顔をせず丁寧に答えてくれたお陰で幾つかの常識を学ぶことができた。聞きたいことを質問し終わった時、晩課の鐘が優しい音色で聞こえてきた。


「ご飯にしましょう!」


 エリーは余程お腹が空いたのか、鐘が鳴った瞬間にリュウの腕を掴み食堂まで引っ張って行った。食堂に入ると肉の焼ける匂いと音に反応してリュウのお腹がなる。


「腹減ったな。親父さん、今日は何が食べられるのかな?」

 

 厨房から顔を出したエリーの父親が大きな声でメニューの紹介をしてくれた。


「ワイルドボアステーキ、秋野菜のサラダ、パン、スープだ」

 

 出来上がった料理をいつの間にかエプロンを着たエリーがテーブルに並べていく。ステーキのワイルドな大きさに思わず涎が垂れそうになったが、堪えて椅子に腰かけて全ての料理が出尽くすまでナイフもフォークも手に取らずに待った。


 ようやく料理が出揃った頃にはリュウも我慢の限界であり、ろくに咀嚼せず、掃除機で吸い込むように口に入れていった。


「旨かったよ。明日の朝も頼むよ親父さん」


「あれ、もう食べ終わったんですか?」


「ああ。今日は疲れたし、もう部屋行って寝るわ」


「そうですか。また何かわからないことがあったら聞いて下さいね」


 了解したとエリーに対して手を振り自室へ戻ったリュウはベッドに飛び込むといつの間にか眠ってしまっていた。

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