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ガチャ23 エーテルの試し

 朝早くから農作業に営む人々以外の姿が見られない王都レーヴォリの大通りを、リィオスとリュウが屋敷へ向かって歩いていた。


「そろそろだよ」


 リィオスは前を向いたままそう言った。

 リュウが周囲を見回すと、そびえ立つ王城の周囲にいくつもの大きな建造物が並んでいる様が見受けられる。


 そこからさらに少し進んだところで、リィオスが前方を指差した。


「ここさ」

 

 リュウの目の前には巨大な敷地を誇る屋敷があった。

 門を抜けると整えられた芝生の絨毯が広がっている。

 先を案内するリィオスについていきながら、ふと目を横に向けると、大きな池に見たこともない綺麗な鱗を持った魚が泳いでいた。


「豪邸だな」


「ハハハ。高かったんだよね。値段知りたいかい?」


「別に、興味はない。さっさと修業できるところへ連れていけ」


「なんだ。残念」


 そう言いながら、嫌味ではない程度に装飾を施された玄関をリィオスが開ける。屋敷の主が戻ったことに気がついた執事とメイド達が仕事の手を休め、リィオスに向かって頭を下げた。


「「お帰りなさいませ。リィオス様」」


「ただいま。ねえ、シリウス。久しぶりに弟子をとることにしたんだよ。この子がそうさ。紹介するよ。リュウ君だ」


「おい、リィオス! 俺をガキ扱いするな。悪いなご老人。俺は冒険者をやっているリュウだ。よろしく頼む」


 丁寧な言葉を使わないリュウだが、日本育ちのリュウは礼儀として頭を下げることくらい知っているため、当然のように頭を下げた。

 端から見ていたリィオスは少しだけ驚き、シリウスに視線を移す。感じのよいナイスシルバーは言葉遣いとは裏腹に丁寧に頭を下げるリュウに好感を持っているようであった。


「頭をお上げ下さい。私めはこの屋敷の執事をしているシリウスと申します。リィオス様の弟子になられたリュウ様を歓迎致します」


 スーツを着たシリウスが深々と礼をした後、上体を流れるようにして戻す。


「シリウス。今日はリュウ君の修業で修練場にしばらくいることになる。私宛に客人が来ても居ないことにしておいてくれるかい?」


「かしこまりました」


「じゃあ、修練場へ行こうか」


 リィオスに連れられて廊下を歩いていると地下へと降りる階段を見つけた。


「階段を降りたところが修練場だよ」


 長い階段を降りると、地下だというのに昼間のように感じられるほどの光が辺りを照らしている。

 岩肌を剥き出しにした修練場は広い空間となっていた。 


「じゃあ、今日は魔力操作の仕方を覚えることから始めよう」

 

「魔力の操作?」


「そう。魔法というのは使用者の魔力を自在に操り、イメージしたものを形作ることでようやく発動するものなんだよ。

 魔力を知覚してある程度自由に操れるようにならなければ、どれだけ魔力保有量が多くても魔法を使うことはできないのさ」


「魔力を知覚する、か。マジックアイテムに魔力を込める瞬間にエネルギーが流れていく感覚はわかるが、それとは違うのか?」


「間違いではないよ。第1歩目という感じかな。はっきり魔力を知覚できるようになると、目で見えるようなるんだよ。そして、徐々に動かせるようになる。次は色や形を整形することができるようになって……と段階を踏んで行くんだ。魔法はいわば魔力操作の応用編と言えるね」


「ふーん。魔力操作を極めたらどんな魔法でも使えそうだな」


「そうだね。ただし、適性のない属性魔法なんかはどうやっても覚えられないんだ」


「おい! もし俺にどの属性にも適性がなかったらどうするんだよ」


「フッ。大丈夫さ」


 目を閉じて金髪をかきあげるリィオス。

 その様子から元Sランク冒険者となれば相手の魔法属性の適性まで見抜けるようになるのかと関心していた。


「やけに自信たっぷりじゃないか。流石は元ランクS冒険者だな。俺がどの属性に適性があるのか、わかってるんだろ?」


「戦士の勘って奴さ!」


「……付き合いきれんな。さっさと始めるぞ」


 思わずため息をついたリュウは無駄口を叩かず修業に集中しようと決めたのだった。


「やる気があっていいね。では、まず身体をリラックスさせて集中できる姿勢を作ろう」


 リュウはその場で座禅ざぜんを組み目を閉じた。深く息を吐いた後、ゆっくりと吸っていく。

 雑念が晴れ、無心となった。


(この年で、なぜこれほどまでに落ち着いた瞑想ができるんだろう? 興味がつきないね)


「いい感じだね。次は体内に意識を巡らせて、魔力を発見しようか。血の流れに乗って魔力が全身を駆け巡っているのをイメージするとわかりやすかな」


 目を閉じたまま、血管の中を流れる己の血に意識を集中。赤い液体が手や足を順番に通って行き、心臓に戻ってく。

 僅かに感じる異物感。

 血漿の中に浮かぶ赤血球や白血球。そこに混じって極めて微細な粒子がリュウの意識を刺激していることに気がついた。


「見つけたぞ。全身を巡るこの粒子のようなものが魔力だな。それに、確かに魔力が見えるようになった」


 柔和に微笑むリィオスの周囲には金色の粒子が煌めきながらオーラのように漂っており、ただそこにいるだけで圧迫される感覚がした。


(……この野郎、なんて魔力量してやがる)


「もしかして、魔粒子を見つけたのかい? 魔力の最小単位が魔粒子と言われているけど、いきなり知覚できる人も珍しいな。ちなみに、魔粒子は魔力と同じと考えていいよ。

 今はその魔力が全身を循環している状態だけど、魔力を体外に出せるようにしなくては意味がないんだ。手のひらから魔力を放出してみようか」


(私ですらその域に至ったのはAランクになってからだよ。リュウ君には本当に驚かされるね。しかし、次が本番だ……)


 驚いていることを感じさせない微笑みのまま、次にやるべきことの指示を出した。


「ああ」


 思ったよりも順調に修練が進み、気を抜きかけるリュウ。


(駄目だ! 調子に乗ってしまったがためにこんなやっかいな師匠に目をつけられる羽目になったことを思い出せ! 適当にやってる暇はない。最短で俺は強くなるんだ。足踏みなんてしてられんぞ)

 

 慢心して手痛い経験をしたことを思い出し、己にかつを入れて再び感覚を鋭く尖らせていった。

 しかし、循環している魔力を手のひらに留めることには成功するも、そこから放出することがなかなかできないでいた。

 15分。30分。1時間。特に進展も見られず時間だけ悪戯いたずらに過ぎていく。


「……おい、できる気配がないぞ!!」


「仕方ないさ。魔法使いが優遇されるのもこの関門を突破できない者が多く、なり手が少ないからだよ。1年かかる人もいれば30秒で終わる人もいる。がんばりたまえ」


(だから、そういうことは早く言えよ! クソッ)


 またも重要な情報を伝えなかったリィオスに対して怒りがいてくる。だが、嘆いていても仕方がないと判断したリュウは、荒ぶる気持ちを抑えようと深く息を吐き、心のざわめきを沈める。

 閉じた瞼の上にある眉に皺を寄せつつ、魔力を手のひらに集め、なんとか放出できるようにと幾つものイメージを脳裏に浮かべていた。

 

(蛇口を捻って水を出すイメージならどうだ。チッ。指先に魔力が圧縮されるところまでは行くが、それ以上の変化がないな)


ーー3時間経過。


(地面から草や花がゆっくりと出ていくイメージなら行けるか? クソッ。失敗か!)

 

ーーーー12時間経過。


 (こんなことをチマチマやっていられるか! だいたい、こいつは良く抜けているからな。聞くだけ聞いておくか)


「……おい。なんか別の方法はないのか?」


「あるにはある。だけどね、正規の手段じゃないんだよ……」


(やはりか! この野郎!!)


「もったいぶるな!」


(リュウ君なら放っておいてもきっと意地でも調べて自力で試そうとするかもしれないね。そんなことになったら目も当てられない。教えるだけ教えて、地道に修行するように説得するとしようか)


「……実は『極大魔光エーテルの試し』というものがあってね。大規模な魔力の塊を直接身体に取り込む際に、無理矢理魔力の通り道を作るのさ。そうすれば嫌でも体外に漏れ出るようにして魔力が流れていく。

 出来上がった通り道から流れ出る魔力を自在に留めたり出したりすることができるようになれば試しは成功というわけさ」


「……つづきは?」


「これは、エルフに生まれたのに魔力を体外に出せずコンプレックスを抱き思い詰めた者が編み出した禁忌とされる手段なんだよ。

 想像を絶する程の苦痛を味わいながら死ぬことが当たり前で、成功率は10%以下だそうだ。勝ち目の薄い、超ハイリスクなギャンブルさ。

 リュウ君もまだ死にたくはないだろう? 言っても意味がないと思ったから言わなかっただけさ。修業は地道にコツコツとやる方がいいんだよ」


「なるほどな。でも、俺はやるぞ」


 呆れたようにため息をついたリィオス。


「……リュウ君ならそう言うかもしれないとは思ってたんだよね。だから言いたくなかったのに。……死んだらどうするの?」


「俺は死なん」


「どうして言い切れるのかな?」


「理由なんてない。そんな予感がするだけだ。改めて知ったが、俺はどうやら根っからの賭け好きらしい」


「やめておきなよ。時間をかければリュウ君なら必ずできるようになるさ」


「根拠はお前の言う、戦士の勘だけだろ?」


「だけどねぇ。こればっかりは流石に危険す……」


 リィオスが言い切る前に、割って入る。自身の信念を伝えるために。


「俺は、何者にも束縛されずに自由に生きると決めている!」


 気炎を吐き、リュウが吼えた。


「それには、国家権力を笑ってあしらえるほどの化け物みたいな強さが必要だろう。Sランクの腕を持つお前も超えなきゃならん。俺はすぐにでも強さが欲しい!」


 口上を邪魔すまいとリィオスは沈黙を貫いている。


「だから、何年もかかって無駄に終わるかもしれないことに時間をかけるのなんて耐えられないね。ここで死ぬなら、それまでの男だったというだけだろ」

 

 物言わぬリィオスの顔を射抜くように睨みつけ、右腕を上げ指を差す。


「俺の覚悟は決まってる。わかったらさっさと『極大魔光エーテルの試し』とやらの準備をやれ。時間が惜しい」


 普段から感情を顔に出さないリュウが、激情して宣言をした。


「……仕方ないね。覚悟はしかと受け取ったよ」


(何を言っても聞かないよねぇ。すでに自分の芯を持っている戦士だったわけだ。見くびっていたかな)


 リィオスは左腕を頭上に掲げ、自身の魔力を圧縮していった。


「……この高密度極大魔力の塊に耐えて操ることができれば、超一流の魔力操作を身に着けられるだろうけど、失敗すれば確実に死ぬ」


 輝く魔粒子をほとばしらせ、黄金の太陽が浮かんでいる。

 超極大の魔力塊。

 覚悟を決めたリュウに険しい顔をさせるほどの、強大なプレッシャー。


「行くよ『極大魔光エーテルの試し』!!」

 

 リィオスが左腕を振り下ろすと、頭上に浮かんでいた黄金の太陽がリュウにぶつかり全身を押し潰すようにおおっている。巨大な黄金の魔力塊が心臓に向かって収束していった。

 想像以上に簡単に収まり、拍子抜けしたリュウ。

 直後、全身を駆け巡る激痛を感じ、絶叫する。


「ぐうおああう! ……っあああああ!!」


 成功するのは極めて稀。

 魔力が通る道を体の外から無理矢理押し付けることで強引に作る『極大魔光エーテルの試し』。その課程で全身に灼熱で焼かれるような激痛が走り、それを耐えたとしても、今度は大規模な魔力の塊を上手く制御できずに暴走させてショック死することもある。

 本来の極大魔光エーテルの試しでは、試しを受ける者が耐えられる可能性を高めるために魔力の量をできる限り少なくするように調整する。それで成功率がやっと8~9%という難易度なのだ。

 だが、リィオスはSランクの魔法戦士として、できる限りのフルパワーで極大魔光エーテルを精製した。制御できればその恩恵は計り知れないが、失敗すれば肉体が爆砕するほどのエネルギーだ。


 極大魔光エーテルが魔力の通り道である魔力回廊を無理矢理こじ開けて通った影響で、死にそうな程の痛みが全身を襲うが、リュウはなんとか堪えている。


「フーッ! フーッ!! フーッ!!!」


 しかし、痛みに嘆く時間も与えられない。巨大な魔力が暴走をはじめ、圧倒的なエネルギーが内側から肉体を破壊しようと膨張し始めた。


「うぎぎがぎいい……。あガがあアあッ!!」


 気力を振り絞り、なんとか暴発を押し留めたリュウ。

 安堵する暇もなく、今度は開いている全ての魔力回廊から勢いよく魔力が噴き出していく。全身から文字通りに魔力が枯渇するまでおよそ30秒。

 普段の魔力枯渇と違い、すべての魔力回廊が強制的に開かれているため生存本能による強制遮断ができない状態。この状態では生命の維持に必要とされる極僅かな魔粒子をも使い切ってしまう。


「オェエエエ……。ッツ!! くああああああああ!!」


 大量の魔力が急激に身体から抜け出ていく。余りの気持ち悪さに嘔吐しつつ、生き残るために残された時間はもうないと悟り、激痛を堪えて足掻くリュウ。

 しかし、一向に流れ出る魔力を留めることができなかった。


 弱々しい心音が、カウントダウンを開始した。

 

ーー命散るまで、残り10秒。

 9、8、7、6、5、4…………。


「リュウよ、生き残れ! 君は、私以外に唯一『リミットブレイカー』の素質を持つ人間だ。こういう場面でこそ、限界を超えてみろ!!」


ーー3、2、1。

 

 「上等だ、クソッたれ!! こんなところで、死んでたまるかあああああああああ!!!!!」


ーー0。


「……ククク。どうやら、賭けは……俺の勝ちの……ようだ、な……」

 

 青紫に染まった顔に冷笑を浮かべ、その場で倒れこんだ。慌ててリィオスが駆け寄り心音を確かめる。非常に聞き取りにくかったものの、ゆっくりであっても確実に鼓動していることが耳に伝わり、安堵の表情を浮かべた。


 心臓が止まる0コンマ1秒前、奇跡的に流れ出る魔力を留めることに成功していたのだ。


 生き残るための執念がそうさせたのだろうか。


「君の執念、たいしたもんだよ。安心して休みたまえ」


 修練場の中心に横たわったリュウは、リィオスに担ぎあげられて屋敷の客室のベットに寝かされるのだった。

お読み頂きありがとうございます。


次回は魔法を使うお話になります。お楽しみに!

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