事件の続きへ
「・・・・やりやがったな」
先輩はそう呟き、本部から出て言った。いきなり出て行ったので俺はその場で硬直してしまった。それは今まで先輩があんな表情をしていたのを見たことが無かったためだ。
一瞬の硬直が解けた俺は先輩を追いかけ本部を出るがすでに先輩はどこに行ったのか分からなかった。電話を掛けるが案の定、繋がらなかった。
仕方なく本部に戻った俺はさっき言っていたことについて詳しく聞くことにした。
「すみません、さっきの事って本当なんですか?」
俺は先ほどの人に話しかけた。
「え、あぁ、本当です。さっき本部に連絡があったんです。それは卯月躑躅の元恋人、一条真琴とその家族について調べていた班からの連絡でした。彼らは一条家を調べるところ姉の存在を知ったそうです。ですが、最初の捜査で家族構成に姉がいなかったんです。連れ子の可能性なども調べたのですが姉はいませんでした。けれど、一条錫が通っていた学校には名簿がありました。・・・・・・もう、わけ分かりませんよ」
どういうことだ。存在しない人物がいるのか?
「あのぉ、ところで、さっきの方はどこへ?」
「あ、そうだった。僕もどこへ行ったかさっぱりで・・・・」
「そうなんですか、頑張ってください」そう言って彼は本部を出て行った。
俺はまた、マンションに来ていた。張り込みのためだったが先輩がここにいるのではないかという期待もあったためだった。だが、マンションには先輩はいなかった。
張り込みをしてから2時間ほど経った。その2時間の間、卯月躑躅は出てこなかった。もしかしたら本部に戻っているときに外出せていたかもしれないと思い始めた頃、俺の電話が鳴った。
「もしもし」
「潮目さん?」
「はい、そうですけど」
電話の相手は同期の桑原だった。
「急いで本部に戻れ」
「何ですか、今度は?」
また本部に戻らなくていけないと思い怠く感じた。だが、彼の声は緊迫していた。そこから何かを感じ取り鼓動が高まる。
「志摩野さんが何者かに襲われた」
彼の鼓動は最高潮に達した。
* * *
「何で姉さんが来たんだ?」
俺は目の前に立っている俺の姉、一条錫に分かっていたが尋ねた。
「分かってるんでしょう?」
「・・・・やっぱりか」
俺の思っていた通りだったらしい。
「アオイちゃんが≪卯月 碧≫だったか」
「正確に言うと、躑躅ちゃんと会った頃は≪支子 碧≫で、今は≪姫川 碧≫よ」
「・・・・ん?」
何か聞いた覚えが・・・・
「あなたが書いてるラノベの主人公」
「あっ!!!」
これは悪魔の悪戯だろうか?こんな偶然が在っていいのだろうか?
「なんか・・・・もう・・・・」
「それで、何なの?勝手に入ってきて!」
気が付くと躑躅もここにいた。
「あの子のことを教えてあげたの」
姉さんが躑躅に言った。
「あなたはそこまで黒いの?ビックリだわ」
「フフッ、今さらよ」
ああ、これはもう・・・・ダメだ。名前の件がストレートパンチだったらこの二人がいるのはボディーブローだ。
そんなことを考えていると話はあらぬ方向に転がっていた。
「碧ちゃんの名前が~、真琴のしょ
「うわああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
絶対にわざとだ!これの件は何があっても守り抜かなくてはいけない!
「ど、どうしたの!? 真琴?」
「え、あー、その、何でも
「真琴の
「いやあああああああああああああ!!!!!!!!!!」
酷い。酷すぎる。そもそも俺は姉さんに小説を書いているなんて言っていない。あんな小説見せられるわけがない。躑躅は俺がラノベを書いていることは知っているが、タイトルましては内容までは見ていないはずだが見られてはいけない気がした。
「分かった、姉さん! おごるから! 何でもいいから! 頼むよ!」
「それじゃあ、居酒屋茂でおごってね」
「分かった。・・・・って何で知ってるの?」
「・・・・私、神様だから」
やめてほしい。本当にやめてほしい。完全に痛い人だから。
「それで、さっきから何なの、真琴?」
「・・・・家族の秘密よ♡」
「別に、あんたに聴いてるわけではないのだけれど。・・・・もういい。聞いた私が馬鹿だった」
助かったのか?
「あ、そうだ!姉さんの話を聞かせてよ!そのためにここに来たんでしょ?」
どうにかして話を振ってごまかすことに成功した。
「そうえば、そうだったわね。何も進展してなかったわね」
そう言って姉さんはソファに座った。
「とりあえず、あの子を見つけ出したところまで話しましょうか。話は長くなるからくつろいでた方がいいわよ~」
「あなたが一番くつろいでいる様に見えるのだけれど・・・・」
と、躑躅が突っ込んだが姉さんは無視して話を始める。
「あの子を見つけたのは、あなた達が高校を卒業した時だったかしら」
「ちょっと待て!」
俺は話を遮る。
「何でそんな早い段階で見つけてたのに黙ってたんだよ!」
「まあまあ、落ち着いて。躑躅ちゃんなら何で連絡しなかったか解るでしょ?」
そう言って姉さんは躑躅の方を向く。
「・・・・警察」
「正解。流石ね」
なるほど。警察が保護しているところに俺たちが疑われてしまうかもしれない。特に躑躅はあの人の・・・・・
「でも、警察はダメだった」
姉さんがポツリと言った。
「姉さん、警察は・・・・」
「警察、いいえ、豊和さんは動けなかった」
答えたのは躑躅だった。
「たぶん、上からの圧力で豊和さんは動けなかった。でも、碧の情報はくれたのね。ただし、錫だけに」
「惜しいね~、最後がちょっと違う。情報は私だけじゃなかった」
「まさか!豊和さんがあいつらに」
「そーゆーこと」
姉さんは足を組んだ。その足はモデルの足そのものだ。
「正確にいうと情報が漏れたの。豊和さんが悪いわけじゃないのよ」
「・・・・まあ、そうだよな。あの人がそんなことするわけ
「ある」
そう言ったのは躑躅だった。
「おい、いくら何でもそれは酷いだろ。豊和さんに失礼だろ」
「それじゃあ、豊和さんを100%信用できるの?」
「もちろん」
「本当にそうかしら?あいつらに金で雇われてるかもしれないのよ?」
「そんなことあるわけがないって言ってんだろ!」
言った時には遅かった。
「・・・・もういい、出ていってもらえるかしら?」
「・・・・ああ、出て行くよ」
俺は立ち上がり玄関へと向かおうとした。
「姉さん、行くよ」
「え、・・・・あぁ、そうね」
姉さんも立ち上がり帰ろうとすると
「錫には話がある」
躑躅は姉さんの腕を掴み帰ろうとするのを阻止した。
「何の話?」
「二人だけで話したいの」
俺の方をみて躑躅は言った。つまりは早く出て行けということだろう。
「分かったよ。姉さん車の鍵、貸してよ。どうせ車で来たんだろう。車の中で待ってる」
俺は姉さんから鍵を受取ると部屋から出て行った。話は長くなるだろうと察した俺は、姉さんの車の中で昼寝をすることにした。
次回も、遅くなるかもです。すみません。