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ライトノベル作家は結婚できないのだろうか?  作者: 間川 零御
2章 シュヴァルツシルト
12/23

本当のハジマリ

「大丈夫だった?怪我はない?何もされなかった?」


卯月躑躅(つつじ)は目の前の女の子、あおいちゃんを触りながら過保護な親のように尋ねた。


「うん、大丈夫。何もされなかった・・・・多分」


卯月の前に立つあおいは答えた。


「多分?」


こちらを見てドスのかかった声を俺に向ける。


「いや、何もしてないからな!」


俺は弁解する。


「本当に?」

「本当です!勘弁してくれ!」


俺はあおいちゃんの部屋にいた。昨日の夜、躑躅に殴られ気を失っていた。朝になりここが躑躅が今住んでいる部屋だと知って驚いた。もちろん驚いたのは俺だけでなく躑躅もだ。須分間、前日に何があったのかを説明して今に至る。


「・・・まあ、いいわ。そんなことよりあなたに話があるの」


そういうとあおいに「大学は?」と言う。あおいは「あ・・・行ってきます!!!」と言って部屋を飛び出して行った。

今あの子を追い出したということは重大な話と考える。


「で、話って?」


俺は真面目な声で尋ねる。


「実は、あの子が・・・例の子なの」


卯月は躊躇いがちに言った。


「は!? なんで!? どうやって見つけたんだ!!!」


例の子とはあの子のことだ。俺が苦労して何年も探したというのに見つからなかったのにありえない。


「お前はあの子をどうやって見つけたんだ!」

「・・・少しは落ち着いたら?」

「落ち着いてられるか!あの子はお前の人生を大きく変えるんだぞ!そしてあの子はな

「黙って」


俺は卯月の発した小さな声で止まる。


「・・・悪い」


俺は深呼吸をした。これで落ち着こうとする。


「・・・お茶、持ってくるわ」

「ああ、悪い」


卯月はお茶を持ってこようと席を立った。


「あの子のせいで××××××」


その時、卯月は何かを言った。


「なんか言ったか?」


卯月は振り返ると冷たい声で言った


「何でもないわ」

「・・・そうか」


そうして今度こそ卯月はお茶を取りに行った。


まったくだ、と俺は考える。元カノの部屋に例の子がいるってやばいだろ。あの夏休み並の問題になってきている。いや、むしろ数年たったからこその問題がある。これは姉さんを呼ばねえとダメか?あの夏休みの時みてえに問題を引き起こしてくれなきゃいいけど。


「はい、お茶。」

「あっ、ありがとう」


頭の中を引き戻す。



ああ、まためんどくさくなってきやがった。





*     *     *





暗い部屋の中一人の男が座っていた。その男は部屋の片隅に立つ女に話していた。


「私はあの子に大変なことを押し付けてしまったのかもしれない。そのことは深く反省しなければいけない。そして、あの子たちを見守らなくてはいけない。あの子は大丈夫だろうが、×××は心配だ。この子は特に見守らなくてはいけない。そして、この二人を出会はせてはならない。私はこの答えで後悔はしていない。だが、――――――――――――」


男の話には纏りがなかった。主旨を自分でも理解できていないのだろう。

女は男の話の後半には耳を傾けることはなかった。女にはあの二人の少女についての些細なことを聞ければ十分だった。なぜなら


「もういいよ、じいさん。全部解るから」


そう言い残して女は暗い部屋から出ていった。

赤が滲みた扉を背景に。




数分後、その部屋は無くなった。





*    *     *





お茶を飲み、ひと段落するとタイミングを見計らったかの様に電話が鳴った。

「ちょっといいか」と躑躅に断りを入れ携帯電話を取り出す。画面には≪一条 (すず)≫という文字が映っていた。


「うわー」


つい声が出てしまった。一条錫とは俺の姉である。


一条錫は俺が思うになかなかの美人だと思う。シスコン的なことではなく世間でも美人と言われると思う。ただし、性格を除いて。

姉の性格の悪さは異常だった。しゃべることのほとんどが皮肉で、汚い言葉遣いを幾度となく使う。世間、年齢、性別関係なし。それであって頭がいい。小中高のテストで100点以外のテストは見たことがない。皮肉はそんな頭脳を持っているからだろうか。


まあ、そんなことは今はどうでもいい。姉がこのタイミング―――俺が躑躅と再会し、例の子が現れたこのタイミングで電話をかけてきたということはあの夏休みの続きを始めようとしているのだろう。はっきり言って俺は、あの夏休みのようなことはもう御免だ。だが、姉はそういうことも判っている人だ。すべてを見透かした目ですべてを見ている。


「もしもし」

「おっはよー!愛しの弟よ」


電話にでただけなのに疲れがでてきた。


「なにが『愛しの弟だ』心にもないくせに。で、用件は?」

「ふふっ、解ってるくせに~」

「お見通しか」

「もちろん!」

「はぁ」


姉と喋っていると元気がなくなってくる。・・・もう電話切っていいかな?


「電話切ったらどうなると思っているの?」


お見通しでしたか。


「それに貴方」


貴方って。


「いいの?あおいたんのこと?」

「ちっ、お前まさかとっくに知ってたんじゃねえのか」


それに『たん』て何。


「お姉ちゃんに『お前』とか言わないの♡ じゃあ、私、忙しいから切るね~」

「ツーツーツー」

「・・・・もう、やだ」

「錫?」


低い声で俺に聞いてきたのでそうだと告げる。


「何なの、あの女」


言っておくと躑躅と姉さんの相性は最悪。例えるなら白と黒の様に。(心はどちらも真黒だが)


「結局、何も教えてくれなかったな」

「当たり前じゃない。あんな仕事をしてるんだから」

「そーだよな」


『ピーン、ポーン』


「誰かしら」


間のいいところでチャイムが鳴った。

誰だろうと思っているとドアが開く音がした。


「ちょっと、なんなの」


躑躅が言っている。何だと思って見ると目の前には躑躅ではない女が立っていた。

その女を見て俺は一言。


「ああ、最悪」


その女も一言。


「会いに来たよ。『愛しの弟』」


そこには仁王立ちをした、一条錫が立っていた。




外では蝉が騒がしくなり始めた。今年の夏が、錆びれた音を立てて始まる。






今回から新章に入ります。よろしくです!

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